第53話 姫媺の謝罪(2)
「‥純粋に気になったことがあるの」
「はい‥?」
「何であんたらは、
「‥‥友人だからです」
「友人でも
「そんな‥
「あれは使い方が分かってるからいいのよ。喜珠には近づくだけで害があるのではと、
「‥大丈夫です。喜珠様は、根はとても優しいお方ですよ」
「‥‥本当のようね」
えっ、やけにあっさりすぎませんか。
「信じるのですか‥?」
「信じるわ。仮にあんたらが喜珠に操られていたとしたら、私達もとっくに操られているはずだもの」
うわ、頭いいです‥‥。
姫媺はそれを言い終わると頬杖を解いて、テーブルの上で手を組みます。
「あんたを平民と言って蔑視したことは謝るわ。あんたも立派な貴族よ」
ん?今何て言った?貴族?あたしが?
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、あたしは平民でございます!」
あたしはとっさに椅子を飛び立って、地面にひざまずいて頭を下げます。
ていうか何であたしを貴族呼ばわりするんですか!あたし絶対貴族になりたくないマンなのに、貴族扱いされるわけにはいきません。
すると姫媺は首を傾げて、また聞いてきます。
「飲食店の土人形の話も聞いたわ。あれだけの精巧な人形を作れるのが平民なはずないでしょう」
「そんな、たまたまでございます!」
「あんたの出自も調べさせてもらったわ。あんたの先祖の姓は
ん?えっ?そんな話、あたしも初耳なんですが。あたしは思わず顔を上げて、弁明を始めます。
「あの‥!あたしは赤子のときに道に落ちていたのを拾われて、
「あんたの母は
「それは‥」
莘の民家の義理の親がほらを吹いたように言っていましたが、まさかそれを真に受けるとは。
「人間がそんな生まれ方をするはずないでしょう、調査の過程で何かを間違えたのではないでしょうか」
「いいえ、桑の木の根にあんたがいたという目撃証言はいくつもあったわ」
たまたま桑の木の根に赤ちゃんが放置されたのを通りかかった莘の人が持って帰ったとあたしは解釈してましたが、いくらなんでも洪水のなんとかは飛躍しすぎています。面倒な話なので、もう部分的に肯定してほっておきましょう。
「でも、仮にそうだとしても、ご先祖様のことは分かりません」
「聞くところによると、
「そんな‥」
そんなこと、あたし知らないんですけど。一体どこまで調べてるんですか。仮にそれが正しいなら、あたしと
戸惑うあたしを無視して、姫媺は話を引っ張ります。
「さて、本題だけど。椅子に座りなさい。私、いっぺん喜珠と話したいんだけど、可能かしら?」
「‥‥へ?」
姫媺が言いそうにない言葉が出てきたので、あたしは目を点にします。
「聞き間違いでなければ、喜珠様とお話したいと聞こえましたが」
「私は確かにそう言ったわ」
ふんと高慢そうに鼻を鳴らすその姿勢からは全く想像できません。これは譲歩か何かでしょうか。姫媺は不満そうに、あたしを睨みます。
「なに、私が喜珠と話したらあんたが困るの?」
「いえ、そういうわけではございませんが‥」
「じゃあ、それでいいじゃないの」
あたしは、まだ半分くらい残っている茶を見つめて少し考えていましたが、尋ねます。
「‥‥なぜそのようにお考えになったのでしょうか?」
「美しくないのよ。喜珠1人のためだけにクラスが2つに分断されているのは美しくないわ。私は伊摯も喜珠も嫌いだけど、形だけでも和解したいの。悪い?」
そう言って、乱暴に片肘をテーブルに乗せます。
確かに、形だけでも和解すればクラスの雰囲気も少しはましになるかもしれません。姫媺は、本気でみんなと仲良くしたいようには見えませんが、クラスを持ち直したい気持ちはあたしと共通しているようです。
「‥持ち帰って
「あんたはどうって聞いてるの、伊摯」
「え、いや、まあ‥‥いいと思います‥‥」
「じゃあ今すぐ会わせてくれない?」
えっ、そんなこと言われても、あたしが仲良くなるのにすら時間がかかった妺喜が、いきなり姫媺と会ってくれるはずがありません。
「それは‥喜珠様にも心の準備が必要でございます」
「待てないわ」
姫媺、ものすごいせっかちですね。調査のことといい、行動は早い方なのでしょうか。
「‥‥そういうことでございましたら、あたしもその場に立ち会ってよろしいでしょうか?喜珠様は人見知りで、親しくない方には気難しいところもございますので‥」
あたしがそう説明すると、姫媺はため息をついて、音を立てて椅子にもたれます。
「‥‥まあ、
ええっと、そこまで理解した上で『形だけの和解』ですか?それがにわかには理解できませんでしたが、言われたからにはやるしかないでしょう。
◆ ◆ ◆
その姫媺の部屋を出ようと思ってドアを開けると、姫媺の取り巻きである姜莭と趙旻が外にいました。ひっ!?あたしは目を合わせないように、下を向いてそそくさと立ち去ろうとしますが、その後ろ襟を姜莭に掴まれます。
「あっ、あたしは‥!」
その口を趙旻が手で塞いで、そっとささやきます。
「一緒に来て」
えっこれ誘拐ってやつですか?と言うまもなく、あたしはそのまま連れて行かれます。連れて行かれるといっても、姫媺の隣の部屋です。ここは姜莭の部屋らしいです。
姜莭は竹が好きらしく、部屋の壁一面に竹を半分に割ったものをびっしり貼っていました。中世ヨーロッパ風の西洋という感じがする部屋なのに、なぜかここだけアジアっぽい異様な雰囲気です。
「‥まったく、
そう言って、趙旻はあたしをベッドに座らせます。ベッドの布団も姜莭の特注なのでしょうか、竹の模様があります。
「えっと‥お二人様は喜珠様とは仲直りしたくないのでしょうか?」
「逆よ。喜珠との関係については、私達も一言言いたかったところよ。ただ私達は姫媺の言うとおりにしてるだけ。姫媺は
自己紹介のときにも曹の国から来た人が3人もいたと思ってましたが、そういうことだったんですね。なおのこと諌めるべきではありませんか‥‥などと突っ込みたかったのですが、退路がない今、慎重になるに越したことはありません。
趙旻に代わって、姜莭がため息交じりに話します。
「媺は思ったことをそのまま言う癖があるし、プライドも無駄に高いのよ。譲歩してくれて、ほっとしてるわ」
「お二人もお気持ちが一緒なら‥‥問題は解決じゃないですか」
じゃあ、どうしてあたしを連れてきたんでしょうか。何か他に理由があるんじゃないでしょうか。あたしが首を傾げると、姜莭は今度は腕を組みます。
「まだよ。媺は焦って喜珠と仲直りしようとしてるけど、本当の問題はそこじゃないわ。
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