第50話 同じ夢を見ていたようです
「どうしましたか、
ぼんやりとしていたあたしは、右側から視界に入ってきた
「そ‥そうでしたね、今は授業中でしたね」
「もう休み時間ですよ」
周りを見ると確かに、他の学生たちが雑談したり、腕を伸ばしたりしています。
「らしくないのじゃ」
左側にいた
「
「すみません‥」
あたしが返事すると、妺喜はふふっと笑います。代わりに子履がまた尋ねてきます。
「なにか考え事でしょうか?」
「ああ‥実はゆうべの夢に‥‥」
ここまで言ってあたしは気づきました。確かにゆうべの夢に出てきた女の子は、なぜか中国史に詳しいという点において目の前の子履にそっくりです。ですがそれを言ってしまったら、『夢に出るくらい私のことが好きなのですね、今夜はお赤飯ですね♡』と言ってくるに決まってます。この世界に赤飯の文化はないんですけどね。
というわけで、できる限りぼかして伝えることにします。
「夢の中で自分の名前が思い出せなかったんです」
「前世の名前ですか?」
「はい。‥‥‥‥ん?」
前世って、どこから出てくるの?びくっとして子履を見ます。子履はうっとりとろけた笑顔になって、色のついた目であたしを見てきます。
「
「な、なぜそれを‥っ」
あたしは思わず椅子から立ち上がってしまいます。周りの人たちもみな、あたしに視線を集めています。子履はそれに気づくと、さっと自分の席につきます。
「‥目立ってしまったようですね。話の続きは後ほどいたしましょう」
あたしがどうすればいいか分からないでいると、そのまま次の授業が始まってしまいました。なんですかこれ。ええっ。ますます集中できないんですけど。つまり、あたしの夢の中に子履が入ってきたってことですか?2人で同じ夢を見てたってことですか?いやいやいやいや気になりすぎるんですけど。本当に気になるんですけど。なにこのなに。これはなに。怖いのもあるけど、意味がわからなさすぎてよくわからない。
「伊摯、当てられておるぞ」
妺喜が横からつんつん肩をついてきたので、あたしは我に返って務光先生を見ます。えっと何に答えればいいんですか。とにかく黒板に書いてるものを当てればいいんですかいいですよねそうですよね。
「えっと、おやつはバナナのうちに入りますか?」
◆ ◆ ◆
その昼の食堂では、みんなしてあたしの噂をしてました。あたしは子履の後ろに隠れて、かつてないほど音を立てないよう慎重にテーブルにお盆を置きます。円いテーブルに座ると、隣の席の子履が呆れるように言ってきました。
「私も恥ずかしかったですよ」
「申し訳ございません」
あたしはぺこりと頭を下げます。一方で、
「
「‥‥‥‥そう‥ですね」
任仲虺は小刻みに首を振ります。それを見て妺喜は、少し任仲虺から距離を置きます。
そんな2人の様子を見て、子履もあたしも察します。任仲虺は以前からなんとなく、妺喜を避けているように見えるのです。
もっとも妺喜は気にしていない様子で、あたしに椅子を寄せてきます。初めて会った時はあたしが近づくのを嫌がっていましたが、今の妺喜は本当にあたしを信頼してくれて、頼ってくれるような感じがしました。
「考え事は終わったか?」
「あっ‥‥終わりました」
あたしはごまかすようににっこり笑いました。しかし妺喜は眉をひそめます。
「まだ終わってない顔なのじゃ」
「あ、それは‥」
「‥まあよい」
そう言って妺喜は、食べ物を口に運び始めました。あたしも子履も食べ始めます。
◆ ◆ ◆
「つまり、一緒に寝ることで同じ夢を見る可能性が高いということです」
寮であたしの部屋に枕を持ってきたかと思えば、子履がこう言い放ってきます。うん、帰れ。ゆうべは心配事があるみたいだったから仕方なく入れたけど、ないなら帰ってほしいです。女同士の恋愛とかに結び付けられたくないです。などと言いたかったのですが身分差もあるのでそういうわけにもいかず、あたしは渋い顔をして子履を招き入れました。
「おう、なんじゃ、今夜も2人で寝るのか?」
「はい‥」
「むう。わらわは本を読んでおるぞ」
部屋の中央のテーブルに座っている妺喜は、本を読み始めます。子履はそれを見てほっと一息つきます。まだあたしと2人きりでいるのが恥ずかしいんですね。
あたしと子履は、ベッドに並んで座ります。
「最初に一緒に寝たのは、仲虺が遊びに来たときでしたね」
「はい、あの時は3人で寝ました」
「その時、夢は見ませんでした」
「はい」
子履は目をゆっくり開けて、したり顔であたしを見上げます。
「そこで私はひとつの仮説を立てました。
うん、普通に嫌なんですけど。昼も夜も、あたしを追いかけてくる子履と一緒なんですよね。
「さあ、寝ましょう」
「い、いや」
あたしが何か言おうとする前に子履は枕を置いて、横になってしまいます。子履がリラックスしてしまったら、下の身分のあたしには手を付けられません。
すっかり困っていると、妺喜が本を閉じて言いました。
「むう、もう寝るのか。わらわは本を読んでいたいから、外に出るぞ」
「あ、はい‥」
「おやすみ」
妺喜は本を持って部屋を出ていってしまいます。
うん、これ、もしかしなくてもあたしと子履の2人きりでしょうか。おそるおそる子履を見ると、顔に枕を押し付けて表情を隠していました。脚もぶるぶる震えています。うん、拒否反応早すぎませんか。
「あの‥」
試しに声をかけてみると、子履は熱湯をあてられたカエルのようにぴょんとベッドから飛び降りてしまいます。
そのまま枕を抱いて、真っ赤な顔をしながら小声で言います。
「‥‥‥‥今日はタイミングが悪かったみたいですね‥‥‥‥」
そのまま出ていってしまいました。
まあ、
しばらくすると妺喜が戻ってきました。あたしはこの夜、ベッドに1人で寝ました。なぜかベッドがおとといよりも大きくなったように感じますが、きっと昨日騒がしかったせいでしょう。
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