第46話 バイト先の土人形(2)
「‥それでは、金属以外に魔法を使ってもらえますか?」
いまだ信じられないような顔をして、
「分かりました。土のボールを用意してもらえますか」
「はい」
すぐに
子履は手に魔力を集中させます。ぶわっと白い光が出て、消えました。
「‥はい。これでこのボールは、硬く崩れにくくなりました」
「お借りしますね」
卞隨先生が鉄砲水を作って、そのボールにぶつけます。水が切れたところで卞隨はそれを持ち上げて、握って確認します
「‥本当です。壊れません」
「信じられない‥」
務光先生もそう声に出します。学生たちもざわつき始めます。
「‥このことは先生たちが持ち帰って調べます。では次、
「はい」
務光先生は平静を装って、授業を進めていきます。
◆ ◆ ◆
「私も驚きました、金の魔法は金属にしか使えないのが普通だったなんて」
次の休日、バイト先に行く道程で子履がそう言っていました。
「ご主人様も疑問は持たれなかったのですか?」
「お義母様と呼んでくださいね。特に何も言われませんでした」
「そうですか‥ううん‥」
そう言って、あたしはちらりと隣を歩いている
「
「だよねー‥」
そうやって歩いて、バイト先の店に着きました。ふと、玄関あたりに10人くらいの人の集まりがあるのが見えました。一体どうしたのでしょう、と覗いてみると、先週あたしと子履が作った3体の土人形がありました。ん?
そばの人に聞いてみます。
「すみません、この土人形がどうしたのですか?」
「ああ、これを今からあの
見物人が指差します。確かにあたしに背中を向けている土人形たちの向かいには、1人の武装した男が剣を構えています。見るからに、
「あの土人形が将軍様に無礼を働いたのですか?」
「いやいや、とんでもない。お前知らないのか?あの土人形が店に近寄るゴロツキやならず者を倒してるという話」
ああ、確かにそういう魔法をかけていましたね。あたしのいない間も意思を持って
「その中にもともと剣の達人で有名だった罪人がいたという話でさ、それから毎日のようにこの土人形に挑戦しようという者が後をたたないんだ。今日ついに将軍様のお出ましっていうやつさ」
「ええ‥」
まさかそんなことになっていたなんて、とあたしが言い始めないうちに、しばらく剣を構えていた公孫猇が、ふんとそれを振り下ろします。
土人形は器用にそれをかわして、公孫猇の腹にキックをかまします。
えええ、待って、これで土人形が勝ったらそれを作ったあたしはどうなるんですか!?理不尽に処罰を受けるってやつですか?いろいろまずいです。思わず駆け出そうとしたあたしを、子履が止めます。
「大丈夫ですよ」
「あ‥」
確かに3体の土人形と公孫猇は互角に戦っています。鬼気迫る勢いで公孫猇は頑丈な剣を刺したり振ったりしますが、土人形は器用にそれを滑らしたり、かわしたりします。
ふと、1体の土人形が尻を蹴ろうとして後ろから走ってきます。公孫猇は、その土人形が至近距離まで詰めてきたタイミングで振り返って、逆にその腹を激しくキックします。それがよろめいたところを、剣で首と胴体の接続部分を突きます。首がぽーんと飛んで、落ちて転がります。
「まず1体」
「うわあ‥」
あれだけ互角で激しい競り合いだったのに、倒す時はほんの一瞬で倒すなんて。その鮮やかな手腕に、あたしは思わず声を出してしまいます。
2体になったあとは楽だったようで、次々と撃破してぼろぼろにしてしまいます。剣を収めた公孫猇は、ふうっとため息をつきます。
「恐ろしい敵だったが、楽しかった。これ、土人形の作者が来るまで代わりに肆を守ってろ」
「将軍様、おめでとうございます」
部下らしい2人の兵士がやれやれと少し呆れたようにうなずきます。うん、貴族に迷惑を掛けるわけにはいきません。話を聞く限り正体を明かしても大丈夫そうなので、あたしはおそるおそる前に進み出ます。
「将軍様、あたしがその作者でございます」
「うん。‥‥えっ?こんな小さい子が?」
周りの人たちも一緒に驚きます。子履もあたしの隣へ来て、挨拶します。
「私も手伝いました。私は姓を
「ああ、
「あたしは姓を
「俺は姓を
ふへえ、将軍と思ってたのですが、夏の将軍の中で一番偉い大将軍だったんですか。しかも先祖代々って名家じゃないですか。あたしが緊張で固まっていると、公孫猇はガガガと笑いました。
「とりあえず、人形を作ってるところを見せてくれ。こんなすごいのを子供が作ったなんてまだ信じられなくてな」
「将軍様のほうがお強いではありませんか」
「とんでもない、確かに俺のほうが強いが、この国で俺を手こずらせたのはあいつとこの土人形くらいなもんさ」
「はあ」
あたしは、ぼろぼろになって道に四散した土人形を魔法で集めて、固め直します。それを横から子履が魔法をかけて固めます。あっという間に、元通りの土人形が3体できました。
その腹ほどの背の人形を何度か叩いて、頬をはたいて、公孫猇は何度かうなずいていました。
「うん、確かにお前らが作ったようだな」
周りの人たちも驚いている様子で、何やらひそひそ話を始めました。
「そうだ、俺を楽しませた礼に、お前らにも何かやらないといけねえな」
そう言って公孫猇は、ちらりと従者を見ます。従者が慌てて、別の従者の差し出した箱を取ってきて、こちらまで運んできます。
「百
「百朋!?」
子履もあたしも目を丸くして固まります。朋とはお金の単位で、前世の円のようなものです。お金は前世のような金属ではなく、海で取れるあの貝を使っています。この世界で百朋は大金なのです。いえそこまで大金というわけでもなく、余裕のある平民なら数ヶ月や1年で貯められそうなものですが、初対面の人にぽんと出していい金額ではないです。
「あの、こんな大金、受け取れません‥」
「私は商の公子です。母上に断りなく他国の人からこのような大金を受け取ると問題になりますので、ご辞退申し上げます」
「ああ‥‥うむ‥‥そうだな」
慌てたように
「‥そうだ、俺のおごりで食べねえか?今日はこの
うん、それあたしですけど。
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