第44話 バイト先面接
「センパイ、ここで合ってるっすか?」
「ここみたいだね。うん、ここならあたしの料理の腕は知ってると思うし、下働きではなくいきなり料理できるかもね」
なんて思ってその肆に入ってみたら、中からまた怒鳴り声が聞こえます。
「こんなものも作れないのか!」
「申し訳ございません、申し訳ございません!」
テーブルを何度もばんばん叩いて男が喚き散らしているところを、店員がべこべこ謝っています。
なんだかこの前も同じ光景を見たような気がします。話を聞いている感じ、肆の料理が想定よりまずかったようです。前回と違うのは、抗議している人があまり立派な服を着ておらず言葉遣いも粗暴で、平民に見えるところです。
見たところ、あたしが
「すみません、この肆は最近うまくいってますか?」
「ああ‥あなたはもしかしてこの前
「はい、そうです」
あたしがそう答えると、店員は何か神様でも見たかのように、やつれていた表情を一気に明るくします。
「奥に行って、主人とお話してもらえますか?」
「はい、大丈夫です」
これはたたごとではないな、とあたしは勘付きました。キッチンの奥に主人の部屋があります。そこは普通の住居にあるような部屋でした。ヨーロッパ風のデザインの壁に、赤い絨毯がしかれています。といっても安物なので、
部屋の奥の机に主人が座っていました。主人は椅子から立つと、あたしと及隶の前まで来て、両手を組んで額につけ、思いっきり頭を下げてきます。これはこの世界で、
「
「ま、待ってください、あたしは長揖の礼をされるほど偉くはないです、本来ならこちらが
「とんでもございません」
そこまで言って、主人はようやく頭を上げました。改めて顔をよく見ると、主人も他の店員ほどではありませんが少し顔色が悪いようです。やっぱりたたごとではありません。
「‥どうしたのでしょうか?」
「実は‥
うわ、これ絶対和弇の差し金ですね。なんだか聞くほどにむかつきます。
「なんとか助けてくれないでしょうか?何でもいたしますので!」
「‥分かりました、やらせてください」
まったくこの世界のいじめは陰湿です。陰湿というか度を超えてるんですけどね。和弇は、弟の
◆ ◆ ◆
あたしは肆の入り口のドアを大きく開けて、なお店員に怒鳴っている小悪党を見て、鼻で笑います。小悪党もそれに気付いたようです。
「何だお前は、俺を見て笑ったか!?」
「そりゃ笑いますよ。どうでもいいことでいちいち怒るなんて、器の小さい人だと思いまして」
「あ?何だとコラ!」
そうやって震え上がる暴漢を、他の暴漢が止めます。
「おい待て、あいつは伊摯ではないのか?この前御主人様がおっしゃっていた、茶髪の幼女だぞ」
幼女といっても、もう8歳(
「ああ、確か
「あいつの挑発に乗るな、落とし穴に落ちるぞ」
「うん、それもそうだ。おいそこの女、俺らと一発やりてえならお前がこっちに来い!」
魔法は媒体がないと使えません。
しょうがないですね、プランBです。あたしは落とし穴を掘った土に手をかざして呪文を唱えます。光とともに、土の人形が3つできました。
「わあ、初めて見るっす、センパイ!」
「あたしも教科書でしか見てないからね、これ使うのは初めてかも」
その3体の人形を操って、肆の中に入れます。
「おらおら、何だ!?」
男たちがその人形を警戒して集まります。と思うと、人形がぼかすかと男の腹を殴ります。
「やったっすか!?」
及隶が興奮しながら言いますが、男は息も乱さずふふっと笑っています。
「うにゃああ、効かないぞ!この鍛え上げた腹筋を馬鹿にするな!」
と言って、逆にその人形の頭を殴ります。殴ります。
及隶が「ひゃっ」と言って目を手で覆い隠しますが、もちろんこれもあたしの作戦のうちです。土の魔法だけで作った人形はもろく、本来なら子履の魔法で固める必要があるのですが、それをしなくてもできることがあります。
すぐに男がその腕をぶんぶん振り始めます。
「何だこれ、取れないぞ!?」
土人形の頭に手が埋もれて取れないのです。ぶんぶん暴れているうちに、土人形が上半身と下半身の2つにぽこっと分かれます。下半身の脚が地面を蹴って、男のもう1つの手にかぶりつきます。男の両手は、2つとも丸くなってしまいます。
「これ、取れないぞ!おい助けてくれ!」
「へい!」
別の男たちが手を覆う土を砕こうとしますが、そうはさせません。別の2体の土人形と戦ってもらいます。
あっという間に男たちは3人とも、土の玉で手を縛られてしまいます。
一通り済んだのを見て、あたしは及隶に「
「それを取ってほしければ、二度とここには来ないと約束してくださいね」
あたしはにこーっと笑いながら、男たちを見下してそう言いました。1人が「くそっ!」と言って立ち上がります。
「暴れたら足にも同じことしますよ?」
それでその男は歯ぎしりしながら座って、3人で相談し始めました。うん、嘘をついて謝るつもりですね。聞かなくても分かります。
「すまん、二度とここには来ない!この通りだ!」
「約束する、許してくれ!」
「分かりました、じゃあ肆から出ていってください。それで外してあげます」
肆を出ていった3人の手の拘束を外してあげると、3人とも頭も下げずにそのまま行ってしまいました。
あたしの後ろには主人が控えていて、何度もあたしに深く頭を下げてきます。
「ありがとうございます、ありがとうございます、これで救われました‥‥!」
「いえ、まだですよ。あの男たちはまたここに来ますから、何か対策しなければいけません」
あたしがそう言ったところで、及隶が子履を連れてやって来ました。
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