第36話 斟鄩学園入学式
「料理の時、
「は、はい」
「なぜその時、私も呼び出さなかったのですか?」
「えっ‥?」
あたしは目をぱちぱちさせます。
「呼び出す必要がないと思いました‥」
「逆ですよ。私は
恋愛関係なく真面目な話でした。よくよく考えればそのとおりなのですが、これまで子履には浮気や嫉妬以外で叱られた経験がなかったので、意外といえば意外でした。
「は、はい、分かりました、申し訳ございません」
「ふふ、分かればいいのですよ。次から気をつけてくださいね」
あたしは椅子に座ります。隣の姚不憺が声をかけてきます。
「ごめんなさい、僕も気が回りませんでした」
「いいえ、
あたしが取り繕ったところで、子履が平手でテーブルを小さく優しく叩きます。
「‥
「はい」
「‥‥次に姚不憺とお出かけする時は、私も誘ってくださいね」
「‥はい、分かりました」
子履は以前のようにべたべたくっつくことはなくなったものの、今でもあたしに嫉妬してくれています。それがなんだか嬉しくて、胸の中から嬉しさと安心感がこみ上げてきます。途端にあたしはそれが、姚不憺と2人でいたときは一度も感じなかった気持ちだったことに気づきます。あたしは目立たないように小刻みに首を横に振ります。
◆ ◆ ◆
さて、斟鄩学園の運営には
‥‥なんて思っていた時期があたしにもありました。
司会が「夏后陛下の式辞でございます」とアナウンスしてから少し経って、ステージの端から女の人がなぜか後ろ向きに歩きながら出てきました。貴族も貴族、並の貴族では着ないだろうと思うくらい立派できれいな服を着ていますが、何かを引っ張っているようです。
「うーい、酒だ、酒が足らんぞ!」
「入学式でございます、ご自重なさいますよう」
その女の人が引っ張っていたのは、黄色い服と
さらにその男性の後ろにももう1人の女性がいて、体を押してステージの真ん中に移動させようとしています。
「うーいっ!」
男性はべたっとステージ真ん中の卓に右肘を乗せますが、すぐ崩れ落ちてしまいます。控室から何人かの男が飛び出て、その男性を持ち上げます。
‥‥ん?なに?この男は乱入者でしょうか?男が卓の上に男性の両肘を置いてもたれさせて、ようやく姿勢を安定させます。
「陛下、陛下!斟鄩学園の入学式でございます。何か一言、おっしゃってください」
そうやって
冕冠をつけた男‥‥信じたくはないですがこの人が夏の帝、のちに『はりつけ』の意味を持つ『
周囲をちらりと見回しても、他の学生たちもあっけにとられている様子です。あたしの左隣、列の端に座る
履癸は何度も卓を叩いて、それから叫び怒鳴るように言います。
「お前らあああああ、おめっ、おめごん、で、とおおおおおお!!!!!!」
ろれつ回ってませんね。
「終わりいいいいいいい!!!!!!」
そうやって、2人の女性に支えられながらふらふらよたよたとステージを後にしました。
卓に残った和晖は、学生たちが沈黙したのを見ると、こほんと咳払いをしてから挨拶を始めます。
「‥‥私は陛下の家臣で、姓を
そのあとの和晖のスピーチはまともに見えましたが、その前の履癸がひどすぎて内容が頭に入りません。呆然としたまま、その入学式は終わってしまいました。
学生たちが席を立ち雑談をしながらホールを出ていくかたわら、あたしは少し離れた席に座っていた子履のところへ行って、小声で尋ねました。
「‥‥本当にあの帝で夏は滅ばないのですか‥‥?」
「小声とはいえ人がいるところですよ」
「あ、すみません」
「といっても、周りの人たちはみんな行っちゃいましたけどね」
子履はそう前置きしてから、ふうっとため息をつきます。
「‥‥大丈夫ですよ。世襲の王を立派な家臣が支えていれば問題はないはずです。
なるほど‥中国史のことはよく分かりませんが子履には子履なりの、あんな王様のもとでも夏を浮揚させるビジョンを持っているようです。それなら、あたしにできるのは子履を信用することです。
「それでも王が至らなかった場合の最後の手段のひとつとして、
「‥大丈夫みたいですね」
「はい。夏はきっと私が支えてみせます」
そうはっきりした口調で言う子履は頼もしく、心強く見えました。
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