第228話 アレクとボリスとナターシャ
―ボリス視点―
『ひぃ、アニキぃ』
俺が一撃で兄を撃破すると、弟は動揺して恐怖の色を見せた。
生命の剣で実体ごと斬った。悪魔だが再生することもできないはず。人類に悪夢を見せ続けていた魔王軍最強の剣士のあっけない最期だ。
たぶん、本人も自分が死ぬなんて思わなかっただろうな。
次は弟だ。こいつは攻撃力は兄よりも劣るが残しておけば十分脅威になる。
『嘘だ。俺たちは最強の双子悪魔で、どんなS級冒険者だって血祭りにあげてきた最強のコンビだろう? こんな奴なんて腐るほどたおしてきたじゃねぇか……お願いだよ、目を覚ましてくれ。なにかの冗談なんだろう、そうなんだろう??』
憐れみを誘うような状況だ。降伏してくれればうれしいが、まぁ無理だろうな。
たしかに、俺は歴代冒険者の中でもありきたりな存在かもしれない。アレクやニコライといった強烈な才能によって引き上げられただけなんだろうな。アレクのような歴代でも最高クラスの才能と比べてしまえば俺はたしかに腐るほど倒してきた存在だ。だがな、俺はアレクと過ごしてきた経験がある。歴史上最強の冒険者の片腕。俺はその称号に誇りを持っている。
ありがとうよ、アレク。お前と会えなかったらここまで来ることができなかったよ。半狂乱になって弟は復讐を遂げようとするが、剣は俺に及ばなかった。
弟の断末魔が聞こえる。俺はもうそいつらに興味はなくなった。リヴァイアサンとミハイル副会長達は激戦を繰り広げている。早く助太刀に行きたい。だが、アレクに一言だが口を出す。
―アレク視点―
俺は魔王の攻撃に対して防戦一方だった。受け方を間違えば即死の猛攻に襲われて余裕がない。
遠目でボリスが双子悪魔を撃破したのが見えた。
そして、俺に叫んでいる。
「アレク!! いつまでもたもたしてるんだ。早くやっちまえ。お前がやらないで誰がやる?」
親友からの厳しい激励だった。簡単に言ってくれるぜ。
「ナターシャ、少しの間だけ聖龍と一緒に俺を守ってもらっていいか?」
「その言葉をずっと聞きたくて私はあなたと一緒にここまで来たんですよ? やっと、あなたに守ってもらうだけじゃなくなった。その言葉を聞けて本当に良かった。任せてください。そのために私は強くなったんです」
「ありがとう」
魔王からの攻撃に対しての防御をナターシャと聖龍に任せる。
あいつの攻撃を途絶えさせるには、一撃を加えるしかない。
通用してくれよ。俺は剣に魔力を込めた。いつものカウンターだ。
※
俺はクロノスの剣を振るう。こいつなら魔王から距離があっても攻撃が届く。
魔力剣を振るう。魔王の死角から攻撃が襲いかかる。さらに、もう一撃。あらゆる方向から遠距離攻撃をかける。さすがの魔王でもこの攻撃には守りに入らなくちゃいけない。
「ぐぬ、おもしろい。あらゆる方向から猛攻か!!」
魔王の連続攻撃が止まった。チャンスだ。ナターシャと目配せをして俺たちは攻撃が止まった魔王との距離を詰める。
※
―会長視点―
アレクは無事に魔王に近づけたか。これでよしじゃな。
わしは目の前の大悪魔に集中する。まさかこの大舞台で魔王の息子と手を組むことになるとはな。不思議なものじゃ。
メフィストは、かつて同化したエレンの姿になっていた。
「異色コンビが私の相手なのねぇ。とても楽しみよ」
「クーデター騒ぎの時、わしになすすべもなくやられた女の姿が好きなのかな? 大悪魔よ」
「あの時は、この女の肉体に宿っていたからねぇ。でも、今は違う。私はあの時にこちらに戻って来れたからねぇ。あんたたちに邪龍と一緒に封印された屈辱は忘れないわよ。ギルド協会会長・ジジ様?」
古い話だ。邪龍はいわば、大悪魔・メフィストのサーヴァント。
すべてを仕組んだメフィストがどうしてエレンが呼び出すまで動けなかったのか。それは第1次邪龍戦争の時に、わしらが邪龍ごと封印していたからだ。大事な女性を失う代償を払いながら……
邪龍教団の本来の目的は大悪魔の復活。
邪龍を復活させたのは、メフィスト復活の前哨戦だった。
「どうして、封印したお主の復活をわしは止めなかったか、わかるか?」
「止められなかったの、間違いじゃないの?」
「それは違う。お主をあえて復活させたのじゃよ。封印は、あくまでもその場しのぎのことじゃった。問題の先送りじゃよ。当時のわしらの手元にある戦力ではお前を滅ぼすことができなかった。だが、今は違う。お主を消滅させることができるすべてのピースは整った。だから、お前が復活するまであえて介入はしなかったのじゃ」
お前だけは決して許さない。いや、わしを利用したすべての者たちに復讐を果たす。それがこの100年のすべて。
「悪い人ね。まるで、怒りに燃えた復讐鬼じゃないの?」
「否定はしない」
「あら、まだなにか隠しているような顔ね。それにここにいる復讐鬼はひとりだけじゃないものね。ねぇ、パズズ??」
やはり、この者もすべてを賭けて復讐に生きている者か。同じ匂いを感じていたが、やはりな。
「お前だけは決して許さない。ここですべてを終わりにしよう、大悪魔・メフィスト!!」
※
わしは光の速さで動く。まずは先制攻撃だ。しかし、奴も本来の力を取り戻していた。クーデター騒ぎの時はなすすべもなく守りに回っていたのに、今回はきちんとガードされてしまった。
「さすがに何度も同じ手は食わないわよ?」
自信満々だがわしの攻撃は陽動じゃよ。
後方からパズズが一気に飛び掛かる。こやつの攻撃は魔力で作った糸のようなものを使って攻撃する。これがパズズの武器らしい。
魔力の流れによってまるで生きているかのように精密な攻撃ができる。
さらに魔力の量によって糸の強度を変えることができるらしい。
ムチのような攻撃から、相手を縛り付けて拘束する補助的な使い方、そして束ねて強度を高めれば鋭利な剣にもなる。
今回は鋼のようなムチがメフィストをとらえた。強烈な攻撃がやつの左腕を切断する。
「ぐおおおお」
悪魔は先ほどまでの余裕がなくなったような悲鳴を上げていた。
ふん、縁起が下手じゃな。実体のないお前がいくらダメージを受けようが問題ないはずじゃ。
わしはカウンターに備えて魔力を分散させる。
左か!!
あいつの動きを予測し、さきにそちらに移動する。相手のカウンターがくりだされる前にこちらが先に攻撃し奴を地面に叩き落した。
「さすがはギルド協会会長と魔王様の息子。やりたいことを先に潰してくるみたいな戦い方ね。おもしろい、おもしろい!! でもね、あなたたちの力では私は滅せないわ。どうしてあなたたちが私と戦う相手に選ばれたのかしら?? 神の存在領域もクロノスも聖龍もない。あなたたちは強いけど間違いなく私の相手には不適切じゃない?」
パズズはその挑発に乗らずに攻めを続けた。糸は今度は槍状になってメフィストに襲いかかる。
奴はなんとかかわした。
「お前が居なければ、世界は終わらなかった。俺たちが大事な人を失うこともなかったんだ」
「あら、母上のことをまだ根に持っているのかしら? それに私を呼び出したのはあなたたちよ? 何を勝手なことを言ってるの」
「ああ、お前みたいな巨悪を生み出したのは俺たちの責任だ。だからこそ、ここで消えてもらう」
「人を勝手に生み出して悪魔のように言うなんて失礼だわ。私は破壊と創造を体現している。魔力文明を滅ぼし、新し生命に叡智を授けたのは私よ。言わば、世界の創造主。神と呼んでも罰があたらないはず」
「そうやってすべてをもてあそぶようなお前に神を名乗る資格はない」
「資格なんて下等生物のあなたたちからもらうつもりはない。私もここでひとつの区切りをつけたいと思っているの!」
メフィストの周りにどす黒いオーラに包まれる。
※
メフィストの禍々しいオーラが強くなっていく。
これが奴の本来の力じゃな。人工的に作られた大悪魔は不敵に笑う。
『よく考えれば、我々3人は己の復讐のためにここにいるのね。他の者が、それぞれ大義をかけて戦っている中で、我々は自分の個人的な恨みでここに立っている。この混乱は私達3人の思惑から大きな流れが作られたのよ。他の者たちが持っている大義はほとんどここにいる3名の私怨から生まれたのね』
「「……」」
我々は沈黙してその問いかけに答えた。
『沈黙は肯定よ。私はこの苦しみしか生まれない汚い世界に強制的に永遠の命を授けられて、閉じこめられている哀れな牢獄の住人。ジジ、あなたは……たぶん、私と同じ破壊者ね。あなたは実力を散々利用されて大事なものを失った哀れな
わしは何も言わず瞬間移動しながら攻撃を開始した。雷属性の魔力と暗黒の魔力がお互いにぶつかり合いながら相殺されていく。
『あなたとアレクは、人類が踏み込んではいけない次元に足を踏み入れているわ。でも、ふたりの原動力はまるで別のものよ。アレクは、ナターシャとの愛や仲間との信頼関係を原動力にラインを超えた。だけどジジ、あなたは世界のすべてを恨んでいる。その恨みが力となっている。本質的には私と変わらない』
やや距離を取った場所からお互いの魔力攻撃が交差していく。
『それに比べればパズズは、私に対する恨みだけ。あなたは、ある意味でアレクに近いわ。あなたは魔力文明で犠牲になった仲間と家族のために戦っている。あなたは優しいのね。すべてを恨んでいる私たちはまるで別世界の住人』
わしの雷撃に対処しながら、パズズの糸にも対処していく。
さらに、守りながら隙を見てはわしらに攻撃を仕掛けていく。
『ねぇ、ジジ? あなたと私の思惑は同じじゃない? なら手を組みましょう。私とあなたが手を組めば、すべてに復讐することだってできるわ。私に対する復讐は、100年間の封印ってことにしてくれないかな? あの永遠みたいな封印ってかなり苦痛なのよ?』
大悪魔は笑いながらこちらに魔力を繰り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます