第227話 ギルド協会幹部vs魔王軍

―ボリス視点―


 やばいな、アレクが押されている。俺はその光景を不思議なことのように見つめていた。魔王軍の最高幹部相手ですら普通に戦えていたはずのあいつが敵の連続攻撃にほとんど前進ができていない。


 やはり魔王本人は別世界の存在か。だが、俺たちはあいつを信用することしかできない。


 まずは巨大な戦闘力を持つ目の前の敵を討つ。魔王軍最高幹部リヴァイアサンだ。すでに副会長を含むギルド協会幹部たちがリヴァイアサンと彼が率いる魔族との交戦がはじまっていた。


 ニキータ局長の強力な魔力が敵を襲う。リヴァイアサンを護衛していた魔物たちは吹き飛ばされる。雑魚に用はない。ニキータ局長の攻撃をくらっても動ける奴らが本命だ。


 リヴァイアサンの護衛が薄くなったのを契機に俺は、敵に向かって前進した。できる限り早くアレクたちに助太刀をしたい。だからこそ、リヴァイアサンを討つ。


 だが、俺の攻撃を受け止めたのはリヴァイアサンではなかった。


 魔王軍に残されていた幹部の生き残りの2人。「クラウ」・「ソラス」の双子悪魔だった。


『うひゃはや、まさかいきなりリヴァイアサン様のクビを狙うとなぁー、なぁブラザー?』

『さすがは人類側最強の剣士じゃねぇか! いい状況判断だァ』


 ふざけた口調だが、こいつらは最高幹部に次ぐ実力があると評価されている魔物たちだ。お互いに剣の使い手であり、魔王軍側の最強の使い手として有名だ。


 記録に残っているだけでも、数十回は戦場に立ち名だたるS級冒険者を斬り殺してきた戦場の悪魔。数多くのS級冒険者と戦ってきても一度も破れることがなく生き残ってきた。怪物たち。


 副会長に目配せをする。彼は頷いた。


 このふたりは俺に任せるという合図だ。仮に幹部全員でこいつらに当たれば、リヴァイアサンはアレクたちを殺しに動く。そうなれば作戦失敗。リヴァイアサンを倒せれば最高だが……仮に倒せなくても、アレクたちの決着がつくまで最高幹部と幹部を足止めできれば計画的には成功だ。犠牲者は何人出ても、すべてはアレクたちのために動く。


『うひゃはや、どうやら動かねぇようだな。ならばこっちからいくぜぇ』

『なんだなんだ、あまりの絶望に気でも失っちまったか?? じゃあ死ねぇ。俺たちは他人の血が大好きなんだよなぁ』


 最強の双子剣士は飛び掛かってくる。だが、俺だって引くことはできない。

 アレクがランクの外にいる伝説級になって、ニコライが戦線を離れている現在、俺が人類側の最高戦力だから。


 最高戦力がここで簡単にやられるわけがねぇよな?


 ※


双子悪魔はコンビネーション攻撃で俺に襲いかかる。兄のクラウが攻撃、弟が兄のサポートのために入れ替わり防御して俺を休まさせない作戦だ。


 つまり、攻防をそれぞれ役割分担して俺を休ませないつもりだ。ふたりとも超一流の剣士であり、連携能力も高い。かなり厄介だった。さらにこいつらを倒してもまだリヴァイアサンが待ち構えている。あまり時間もかけられないのに……


『ひゃっははあ、こいつ、俺たちを相手にしているのに、意識はリヴァイアサン様にいってやがる』

『さすがは人類最強の剣士様だな、アニキ。でも、その余裕が命取りだぜぇ』


 ああ、たしかにこいつらの言うとおりだ。集中しなければこいつらを突破することもできないだろう。そして、俺は現在劣勢だ。俺の剣術スタイルはアタッカー型にも関わらず、常に防御に回っているからな。


 カウンター型は魔王と戦っているアレクのスタイルだろうにな……やってられないぜ、ホント。


 だが、俺とアレクは長い冒険者生活でお互いに影響を与え続けてきた。あいつは間違いなく天才だ。剣術ではかろうじて俺の方が上かもしれないが、総合力が段違いだからな。あいつと魔力有りの決闘をすれば、俺は一方的に守勢に回らなくちゃいけないだろう。


 そう今の状況のように……


 つまり、俺が防御に回らなくちゃいけない状況は頭の中でいくつも想定している。

 それを応用すればやれるはずだ。


 チャンスは一度キリ。あいつらの連携攻撃を崩せなければ終わりだ。カウンターをくらって切り刻まれるはず。


 狙いは攻撃担当のクラウだ。兄の悪魔を先に潰す。こいつらの連携は一見完璧だが防御から攻撃に回る一瞬にスキがある。そこをカウンターで潰す。


 兄の攻撃を受け流し、次に弟が俺の攻撃を受ける。普通なら攻撃をするところだが、俺は弟が出てくるとあえて後ろに下がった。その意表をつく行動で若干の連携に誤差を生じさせる。


 こういう細かい動きから変化を作るのはアレクが本当にうまかったな。アレクとニコライの最初の決闘の時もそうだった。すべての動きを読み切って、カウンターでニコライを沈めた。


 あの真似をしよう。敵の癖を読み切ってわずかな変化で隙を作り出す。


 生命石の剣。パズズから譲られた最強の剣の一つ。メフィストにもダメージを与えることができる聖剣ならば、双子悪魔にも必ず効果がある。


 再び悪魔の攻撃が切り替わる。


 本来ならば俺は防御に回っていたタイミングで、今度は攻撃に移る。


『なっ』


 まさか突撃してくるとは思っていなかった悪魔は一瞬、動揺する。


 その一瞬が命取りとなる。攻撃に特化していた兄は、防御が甘い。俺の全身全霊の攻撃が、魔王軍最強の剣士の頭を吹き飛ばした。


 その一連の動きが俺が最高戦力であることの証明だった。アレクだけにすべてを背負わせるわけにはいかない。

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