第225話 強襲移乗

 俺たちの攻撃が敵の攻撃力を半減させた。このまま次の攻撃の充填に移る。


 敵の無尽蔵にも思えた連続攻撃も半分になってしまったせいで俺たちへの送り風となる。迎撃の負担も半分となり、俺たちは優勢となった。


 魔力の充填が終わって俺たちの攻撃の第二波が敵を襲った。敵の主砲へ魔力弾が直撃し大爆発を起こした。これで敵の主砲をすべて奪い去った。あとは接近して敵の頭を叩く。


 たしかに、このまま艦砲射撃でルシファーを撃沈してしまえばいい。戦術的な勝利をつかむならそれが一番簡単だ。だが、その勝利ではおそらく魔王とメフィストは取り逃す。俺たちの戦略的な目標であるすべてを終わらせることができない。


 つまり、直接乗り込んで倒すしかない。


 敵の攻撃力は完全に奪った。後は接近するだけだ。継戦能力を奪われたにもかかわらず魔王軍は撤退の様子もない。向こうも直接対決を覚悟しているということだな。ここでケリをつけるつもりだ。


 俺たちは魔王軍の護衛艦を艦砲射撃で蹴散らしていく。たとえ、ここで俺たちが敗北しても魔王軍艦隊は壊滅している。言い換えれば、再度の再侵攻はずっと後になる。その間に人類も体制を整えることができる。


 だから、敵の海軍戦力を完膚なきまでに叩き潰した。総旗艦・ルシファー以外の主力艦は海の藻屑もくずとなっている。


「じゃあ、いくか。ナターシャ!」


 作戦は第2フェーズへと移行した。魔王軍艦隊の戦闘力を奪い去った後は、ついに敵艦へ殴り込みをかけるんだ。


 俺とナターシャで!!


 聖龍にのって俺たちは先鋒を務める。俺たちの最初の目的は、まだルシファーに残っているだろう対空火力の無効化だ。聖龍の力と光魔力で敵の最後の防御力を崩壊させる。


 次に、残りのギルド協会最高戦力がボリスの持つ楯・双頭龍の片割れを使い強襲移乗する。


 そして、双方の最高戦力同士が雌雄しゆうを決する。


「はい。長かった戦いもようやく終われますね。私たちの最初の夢の終着点に向かって行きましょう、先輩!!」


 ナターシャも俺の手をつかんだ。彼女の手はかすかに震えていた。

 俺は少しでも不安を和らげようと強く握る。


「先輩? こんな時だからこそ、言っておきますね。私はあなたのことが好きです。いえ、愛しています。すべてを終わらせてふたりで幸せになりましょう?」


「ああ、絶対に幸せにするよ。約束する。俺もナターシャのことを愛している」


 彼女は満足そうに笑うと、聖龍を召喚した。俺たちは、龍の背中に飛び乗る。そして、敵陣に突入した。


 ※


 俺たちは無言で魔王軍総旗艦に突撃する。敵の主砲は完全に破壊したから、俺たちをさえぎるものは何もない。初戦で壊滅した魔王軍航空部隊がいればまた別の展開になっただろうが、そちらもグランド・アレクの猛攻で叩き落している。


 総旗艦の護衛艦も艦砲射撃で吹き飛ばした。


 散発的な攻撃も聖龍が作り出す障壁のおかげですべて無効化させることができる。


「すごいな、この聖龍は!!」


「はい。私が使役するのがもったいないくらいですよ」


 ナターシャはそう笑う。だが、ナターシャはこの聖龍と今までの自分の能力が組み合わさることでS級でも屈指の実力者になっていると思う。


 そもそも、回復魔力に関してはナターシャは若き第一人者だった。マリアさんも回復分野ではナターシャには勝てないと評価していた。また、索敵魔力も医療行為の応用で相当な使い手でもある。補助魔力と神官故に火力が劣るのが最大の弱点だった。


 だが、聖龍はその穴を完璧に埋めてくれている。


 聖龍の攻撃力は折り紙つきだろう。魔王のカケラすらも倒すことができるのだから。

 そして、聖龍には強力な魔力防御力がある。大悪魔メフィスト対策として考えられているだけあって古代魔力クラスすらも下手をすれば無効化できる。


 俺とナターシャが先陣に選ばれたのもそういう理由だ。敵の攻撃にさらされても聖龍なら安全だ。ふたりだけで敵の中央に突撃するんだ。2対多数でも制圧できる攻撃力も評価されている。


 そして、俺たちは敵の総旗艦に近づいた。禍々まがまがしいほどの黒い戦艦だった。


 敵の対空攻撃が俺たちを襲う。だが、聖龍にはそのような小技は通用しない。先ほどの主砲のような強力な攻撃を何度も連発できれば話は別だろうけどな。


 聖龍は咆哮ほうこうをあげると、対空攻撃に対して反撃を行う。無数の光が敵の対空魔力砲台を襲い沈黙させていく。これで俺たちの最初の目的は達成された。


 俺たちは大混乱に陥った敵艦に降り立つ。ついに、最終決戦の地へと立つことができた。

 

 そして、奴の威厳のある声が俺たちを出迎えた。


『ついにたどり着いたな。ようこそ、史上最強の冒険者アレク。まさか、ふたりだけでここに来るとは思っていなかったよ。若いな。怖いほど無鉄砲だ。羨ましくもある。この姿を人間に見せるのは初めてだ。つまり、キミたちには敬意を示している。対空火力を潰したのだからそろそろ援軍もやってくるんだろう? 人類と我々、どちらが地上に残るか。最後の審判をはじめようか?』


 戦艦の中央に玉座があり、声はそこから発せられていた。


 魔王だ。

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