第206話 そして、ふたりきりの部屋に戻る

―アレクの部屋・ナターシャ視点―


 あの時の若かった自分を思い出すと苦笑してしまう。

 でも、あの時の私を今では誇りに思うわ。


 結果として彼の手を離すことはなかったのだから……


 たぶん、あそこで私が告白しなければ――

 彼との縁はあそこで途切れていた。勇気をもって一歩踏み出したからこそ遠回りはしたけど私たちは今の時間を共有できている。


 だからこそ、あの告白にも意味があったのよね。


 最低の返事だったかもしれないけどね。今はあの瞬間すらも愛おしい。


 あの時以上に緊張したのはたぶん温泉の時ね。


 ※


「ねぇ、センパイ? こっちのベッドに来ませんか?」


「ナターシャ、俺さ…… 今、あの時の答えを言っちゃダメかな?」

「……」

「俺、お前のことがす……」

「まだ、ダメですよ。先輩……」


「先輩の気持ちなんて、卒業式の日に告白した時からわかっています。だけど、聞いてしまったら、私の目標は達成しちゃうんですよ。たぶん、幸せでどうしようもなくなってしまう。もう満足してしまって、戦わなくてもいいかなって思ってしまう。それを許してくれる先輩の優しさに甘えるだけの存在になってしまう。そんなんじゃ、私は本当の意味で、先輩の隣にいる資格がなくなってしまうからです」


「これが封印の約束、ですよ?」


 ※


 あの時の私はもしかしたら意地悪だったかもしれない。卒業式の恨みを果たそうとしていただけなのかもしれない。よく自分の気持ちが暴走しなかったと今では思う。覚悟だけは固めていたのよ。だって、そうでしょ? あんな状況で何が起きるかなんてわからないじゃない。


 でも、あの時、誓ったんだ。少しでも先輩に追いついて彼の役に立てるように頑張るって。


 やっとあの時の誓いが今回果たせた。聖龍を従えてS級冒険者にまで昇進できた。

 これで私はやっと先輩にふさわしい女性になれたんだと思う。


 ※


「私は、あなたが大好きです。これからもずっと一緒にいてください」


 ※


 ハデスとの決戦の後、私は2度目の告白をした。

 でもあの時の告白は気持ちがこぼれ落ちただけ。


 先輩を失ってしまうかもしれないという怖さから本心を隠せなくなっちゃっただけ……


 だめだ。いろんなことを思い出せば思い出すほどアレク先輩のことが好きで好きでたまらないという事実だけが残ってしまう。


 そんなことを考えているうちに先輩が覚悟を固めて私の良いところを話し始める。


「優しいところだよ。どんなに過酷な場所だろうと、助けを求めている人がいればお前は常に前線に立っている。難民キャンプでもバル攻防戦でもヴァンパイアの時でもハデスの時でも――いつもそうだ。S級冒険者だってなかなかできない場所にナターシャは常に立っている。すごいことだよ」


 こういうところ。

 だから、私は彼を好きであり続けるんだ。

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