第205話 7年前の告白

 私は人生最大の勇気を彼にぶつける。

 先輩は少しだけビックリしていた。


 もう夕暮れ時だった。夕日に照らされて私たちの体温は上昇していった。この夜が最後の夜にはしたくはなかった。それをしてしまえば、一生後悔するとわかっていたから……


 そうよね。これは実質的な告白の言葉だ。もう後には引けない。さいは投げられたのよ。


「先輩? あなたにとって私はただの後輩だったのかもしれません。でも、私にとっては先輩はただの先輩じゃないんですよ?」


「ナターシャ……」


「最初の先輩はただめんどくさいだけの人でした。世界に絶望していた私にとって、あなたはただの異物だった。私だけの世界になぜか入ってくる怖い人だったんです。でも、そんな怖い人に私は恋をしてしまった。私の運命はあのゴーレムから先輩が助けてくれた日から変わってしまったんですよ。世界に絶望していた可愛くない後輩をあなたは命を懸けて助けてくれた」


「あれは――とっさだったから」


 とっさだったから余計にすごいのよ。普通の人ならあそこで立ちすくんでしまうところなのに……実際、先輩は私を守るために大けがをした。そこまでして私を守ってくれた。そんなことをしてくれる男の人なんてあなたしかいない。


 あなたがいない世界なんて想像できないくらい先輩が好き。


「それでも、私の心は動いてしまいました。あなたが私の世界を色づけてくれた。灰色の世界に過ごしていた私は、あのダンジョンで世界の色を取り戻すことができた。それだけは疑いもできない事実です。そして、あんなことをされて好きにならない女の子がいないなんて思いますか」


「それって……」


「私はあなたが大好きです。先輩と出会ってから私は幸せなんです。ずっと仲違いしていた家族とも仲直りができた。あなたと過ごす昼休みが毎日、幸せだった。たまの外出の時に待ち合わせて一緒に遊べるだけで前日は眠ることもできなかった。先輩のご家族と会えただけで、まだ恋人にもなっていないのにあなたと結婚する未来を想像してドキドキしていた。そんな風に人を好きになるなんて私は思っていませんでした。なのに、あなたは私を変えてしまった。たぶん、こんなに人を好きになるのはこれが最初で最後だと思っています。だから……」


「……」


 彼は少しだけ顔を赤らめながら私のことをまっすぐ見つめていた。


 そして、次の言葉で私たちの長い空白期間は生まれたのだ。


「私と付き合ってください。あなたと同じ時間を過ごしたいんです」

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