第204話 7年前の卒業式
―ナターシャ視点―
「私のどこを好きになったんですか? 先輩のほうも聞かせてくださいよ……そうじゃないと、なんかずるいじゃないですかぁ」
私はとても勇気をだして彼に言う。あくまでふざけているように言わなくちゃいけない。先輩に心がどんなにかき乱されているか知られちゃいけない。だって、それがばれてしまえば先輩の本心なんて教えてもらえない。チャンスがないと先輩の素直な気持ちなんて教えてもらえない。
だから、私は必死に攻める。
「ずいぶんと積極的だな、今日のナターシャは……」
やっぱり逃げようとするのね。
でも――
「今日は逃がしませんよ? もう私たちの間には壁なんてないんですからね」
「そうだな……いくつもあるけど……」
いくつもあるんだ!!
そこは素直に嬉しい。
「全部教えてくださいよ?」
「でもさ、それはちょっと恥ずかしすぎるというか」
「いいじゃないですか。私は先輩のために何年も待ったんですから……それくらいサービスしてくれても? そもそも、私の人生を狂わせた張本人なのにちゃんと責任を取ってもらっていない気がします。よかったですよね、先輩? 私がチョロくて……普通の女の子は私みたいに何年も待ってくれませんよ? 女の子の告白に対して、あんな風に言ったら一発で終わりですからね」
自分で言うのもアレだけど、私って本当にチョロいと思う。
だって、先輩の卒業式の日……
※
―7年前の卒業式―
私はあえて先輩を伝説の木の下に呼び出した。告白が成就するという伝説がある木の下で彼を待っていた。私がそんなメルヘンなことをするなんて思わなかったのにな。先輩は卒業の後は冒険者になる。冒険者は過酷な仕事で、もしかしたらこれが最後の別れになってしまうかもしれない。だから、気持ちを伝えておきたかったの。
私の人生を取り戻してくれた最愛の人に……
「卒業の日にわざわざ呼び出してごめんなさい」
「大丈夫だよ。むしろ、卒業の日にナターシャに会えてよかったよ。俺がいなくて寂しくなるだろう?」
「全然です。むしろ変な人に付きまとわれなくなって私の人気が上がるかもしれません」
私は必死に取り繕った。先輩と気軽に会えなくなる。その事実がどうしようもなく悲しい。
「まあそうかもなぁ」
「そうですよ。だから、全然悲しくなんて――ない、んですよ?」
私はばればれの強がりをする。関係が壊れてしまうかもしれない。私が一歩踏み出すことで本当に私たちは離ればなれになってしまうかもしれない。
でも、心の部屋にカギをかけることなんてもうできなかった。
「卒業の前にちゃんと言っておきたかったんです。私があなたをどう思っているのか……」
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