第203話 好きなところ

 そして、俺は口を開く。

 今の状況をより甘いものにするために。


「そうだな……いくつもあるけど……」


「全部教えてくださいよ?」


「でもさ、それはちょっと恥ずかしすぎるというか」


「いいじゃないですか。私は先輩のために何年も待ったんですから……それくらいサービスしてくれても?」


「うっ」


「そもそも、私の人生を狂わせた張本人なのにちゃんと責任を取ってもらっていない気がします」


「ぐぬぬ」


「よかったですよね、先輩? 私がチョロくて……普通の女の子は私みたいに何年も待ってくれませんよ? 女の子の告白に対して、あんな風に言ったら一発で終わりですからね」


 たたみかけるように精神攻撃をかけるナターシャ。絶対に逃がさないつもりだ。


「そうだな、ちゃんと言うよ」


「やっと覚悟を固めましたね?」


「言ってもあんまりからかわないでくれよ。できればすぐに忘れて欲しいんだけど?」


「わかりました。なるべくそうするように努力します!」


 これは忘れないやつだ。


 でも、仕方がない。話そう。


「そうだな。まずは、ナターシャの優しいところだな」


 俺は早く終わらせようと、早口になる。


「ダメです」


「なんで!?」


「そんな適当なセリフじゃ、ときめかないからですよ~もっと具体例を挙げて褒めてください」


 余計にハードルが上がっている。


「……」


「へー、そうなんですかぁ。先輩の気持ちってそんなもんなんですかぁ?」


 ナターシャはちょっとだけいじけている。そのいじけた振りがとてもかわいいなぁ、ちくしょう。


「わかったよ。言えばいいんだろ!」


「心を込めてお願いしますね?」


 そう言って頭を俺の肩にあずけてナターシャは小動物のように甘えてくる。


「優しいところだよ。どんなに過酷な場所だろうと、助けを求めている人がいればお前は常に前線に立っている。難民キャンプでもバル攻防戦でもヴァンパイアの時でもハデスの時でも――いつもそうだ。S級冒険者だってなかなかできない場所にナターシャは常に立っている。すごいことだよ」


「悪くないですね。他のも教えてくださいよ」


「あとは見えないところでめちゃくちゃ努力しているところだ。ナターシャ、この1年間で魔力キャパシティ相当上がったよな?」


「えっ……?」


「気づいていないとでも思ったのか? あの聖龍を使いこなせるくらいの魔力量って相当だろ。村の経営の合間にどんだけ頑張っていたんだよ? 相変わらず努力家だよな。ナターシャは……」


「ふふ、気づいてくれていたんですね」


「当たり前だろ? ずっと一緒のパートナーの変化に気づかない奴なんていない」


「私もちゃんと見ていてくれる先輩が大好きですよ?」


 ナターシャはゆっくりと俺のほほにキスをしてくれた。

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