第207話 好き

―ナターシャ視点―


「悪くないですね。他のも教えてくださいよ」

 私は調子に乗っていた。だって、好きな人に褒められるって最高だから。調子に乗るなと言うのが無理よ。


 先輩は恥ずかしそうに続けた。


「あとは見えないところでめちゃくちゃ努力しているところだ。ナターシャ、この1年間で魔力キャパシティ相当上がったよな?」


「えっ……?」


 見ていてくれたんだ。誰も気づいていないと思っていた。私は村の経営と一緒にひそかに魔導書を買いこんで勉強していた。


 先輩の成長スピードは常人レベルじゃない。私だって普通の冒険者に比べたら魔力の才能はあるはず。21歳のS級冒険者といえば、歴代最年少記録を持つアレク先輩に比べたら遅いけどそれでも間違いなく早いはず。


 だけど、私のようなレベルに彼はいない。

 史上最高の潜在能力を持つ魔力の天才はすさまじい早さで進化し続けている。


 時空を操るクロノス、古代魔力、神の存在領域。


 ここ最近だけでも歴史的な偉業を達成している。


 この3つを短期で使いこなしてしまった。すでに魔力アカデミーでは先輩のために新しい称号を作って叙勲じょんくんしようとしているらしい。


 伝説級冒険者になってしまった先輩の肩書は新しくなっている。


 史上最年少伝説級冒険者、ギルド協会総司令兼官房長、魔力アカデミー特任教授兼主席研究員、ギルド協会冒険者学校名誉教授などなど。


 あらゆる施設に対して顔パスできるほどの権威だ。それもすべての肩書において史上最年少という注意書きがついてしまうのよね。

 

 そんな人が私の好きなところを褒めるために悩んでいるのが可愛かった。


「気づいていないとでも思ったのか? あの聖龍を使いこなせるくらいの魔力量って相当だろ。村の経営の合間にどんだけ頑張っていたんだよ? 相変わらず努力家だよな。ナターシャは……」


 どんなに偉くなってもやっぱり彼の本質は変わらない。私の変化にすぐに気づいてくれるし、優しい。そして、どこまでも成長にどん欲なのよね。


「ふふ、気づいてくれていたんですね」


「当たり前だろ? ずっと一緒のパートナーの変化に気づかない奴なんていない」

 そんな風に言われるともう我慢はできなかった。


「私もちゃんと見ていてくれる先輩が大好きですよ?」


 恥ずかしいけどちゃんと言わなくちゃいけない。そして、それを形にしたい。


 私はゆっくり彼の顔に近づく。

 大好きな彼のにおいで自分が包まれていく。その瞬間が本当に幸せで、かけがえのない一瞬で……


 私たちがやっとたどり着いた大切な瞬間だと思う。


 私は優しく彼の頬にキスをする。


 そこにあるはずの永遠を求めて……

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