第183話 エンゲージリング
「こういうちゃんとした宝石店にはよく来るんですか?」
「残念ながら初めてだよ。ナターシャは貴族だからよく来るだろう?」
「偏見です。学園生活と冒険者時代の方が貴族時代よりも長いんですよ? 小さい頃は宝石なんか興味がないから実質初めてですよ。こんな高そうなお店」
それは意外だな。貴族の伯爵家なんて豪遊していると思っていたから。
「魔力効果もない宝石が300万ゴールドもしますよ。先輩、お金あるんですか。あんな小さいものが立派な馬車と同じくらいの金額なんて……」
「大丈夫だよ。この前のクーデター事件でのエレン討伐と最高幹部ハデス倒したから報酬がたんまりとある。贅沢しなければ一生働かなくてもいいくらい稼いでいるぜ」
「ずいぶん景気がいいですね」
「だからナターシャが気に入ったものを選んでくれたらと思ってさ。俺こういうのあんまりよくわからないし」
「こういうのをスマートに渡してくれるのが伝説級冒険者様なんじゃないですか?」
「めんもくない」
「いいですよ。そういう人間味がある先輩を見ていると少しだけ安心しますから」
ナターシャはそう言って笑う。高級店だから少しだけ控えめに。
「どうしてエンゲージリングを渡すか由来を知っていますか?」
「いや」
「指輪の形が永遠に途切れることがない円環の形だからですよ。肉体が滅びても魂は永遠にその輪の中で結ばれ続ける。明日からの私の左手薬指には、本来人間が持ちえない永遠が存在するんです。ちょっとロマンチックですよね」
指輪が途切れることがない形だから永遠か。おもしろいな。
「先輩。ハデスが言っていたようにもしかしたら、あなたはもう神のような存在なのかもしれない」
「あれはあいつの妄言だろ。気にしなくていいよ」
「はい、でも私はあなたに永遠を誓って欲しいんです。それができるのは神様だけだから。私のために選んでください。どんなものでもいいんです。あなたが選んでくれたものならすべてが宝物になります。永遠を誓うに値する指輪になるんです」
「わかったよ。気に入るといいんだけど……」
「大丈夫です。絶対に宝物にしますから」
自信はないけど、俺は自分の直感を信じて選んだ。永遠を象徴するダイヤモンドが埋め込まれた指輪を……
「これでいいかな?」
「最高です。ずっと一緒にいてくださいね。そばにいて欲しいのはあなただけですから」
ディスプレイの下で俺たちはゆっくり手を握る。この温もりを忘れたくない。
俺たちはゆっくりお互いの指を温めあった。
この関係が永遠に続くことを祈って。
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