第159話 鉄の騎士
ボリスが前に進むと、やはりあの騎士は動き始めた。階段を守るために、配置されていたんだろうな。だけど、このダンジョンは形が変わるものだ。じゃあ、この仕掛けも次に来るときにはないのかもな。もしかすると、魔力も使える場所になっているかもしれない。
そして、泥人形や今回の鉄の騎士。
まるで、試されているみたいだな。このダンジョンが、俺たちの特性を理解して、試練を用意しているみたいに感じてしまう。
「ずいぶん、大きい鉄くずだな」
ボリスは剣を抜いた。
巨大な鉄の騎士には、巨大な剣と盾が装備されている。あれで繰り出される一撃は強力そうだ。どうやって、それをよけるかだな。
だが、動きはとても遅いようだ。まさに、パワーファイターのような守護神を見つめながら、ボリスは臨戦態勢を取る。
鉄がダンジョンの壁とぶつかって物音を立てている。
「ボリス、くるぞ」
俺が声をかけると、あいつは無言で頷いた。
ボリスの頭上から、巨大な剣が振り下ろされる。ボリスは剣でそれを受け止めるが、ふたつの剣からはお互いに強力な衝撃波が生まれてくる。
ボリスの立っている地面は、クレーターのように陥没していく。人類最強の剣士じゃなければ、間違いなく剣圧でやられていた。
そして、純粋な剣の勝負でボリスがここまで押されているのを俺は初めて見た。
ニコライだって、
純粋な1対1の物理勝負で、あいつに勝てる奴はいないはずだ。
だからこそ、あの像の強さは際立っている。
ボリスの戦闘力を、あいつは自分のパワーだけで押さえ込んでいた。
一撃でもくらってしまえば、終わってしまうから、ボリスもうかつに攻めることができない。
初撃のつばぜり合いで、受け止めるのは難しいと判断したんだろう。あいつは、回避に徹している。
正解だな。受け止めても、さっきみたいに衝撃波でダメージが蓄積する。
だが、回避ばかりしていては、ボリスの良さまで消えてしまう。
どちらかといえば、今のボリスは俺の剣術スタイルに近い。だからこそ、ボリスのスタイルとは真逆の苦戦を意味する。
だって、あれはボリスの超攻撃的なスタイルに対抗するために、考えた俺の作戦だからな。
ボリスは、スキを見つけて攻撃しようとしているが、安易に攻撃に移ればそれだけリスクが高くなる。
ボリスの顔もかなり厳しいものとなっていく。
俺は、戦友を信じて、それを見つめることしかできなかった。
目の前で、ボリスは後ろに飛んで攻撃をかわしていた。
※
―ボリス視点―
くそ、ずいぶんと防戦一方だぜ。
俺は、鉄くず野郎の攻撃をギリギリでかわし続けている。一撃、一撃の破壊力は、魔王軍の幹部クラスはあるな。そして、あの体が鋼鉄でできていると考えると、下手な攻撃をしようものなら弾かれてカウンターのえじきになってしまうだろうな。
つまり、チャンスは一回しかない。
相手の急所を見つけて、そこに全力の技を叩きこむ。それで通用しなかったら俺の負けだ。
1対1でここまで戦える奴とめぐりあえてよかった。
俺の甘さみたいなものが浮かび上がってくるからな。
※
「キミ強いけどぉ、さすがに4本の腕に対処できないみたいだねぇ。ほらぁ、彼女ががら空きだよぉ」
「さすがだな、純粋な剣術なら、お前がナンバー1だよ、ボリス。俺に連撃を撃つスキも作らせないとはな」
「だが、リーチの違いが大きかったな」
※
ヴァンパイアとニコライにやられた時のことを思い出してしまった。
あそこでも結局は、俺は時間稼ぎしかできなかった。
たしかに、俺は剣技では世界最強かもしれない。でも、今の俺じゃ最強レベルの相手には時間稼ぎしかできないというのが、現実だ。
それじゃあ、俺はアレクに助けてもらってばかりじゃねえか。
いつまで助けてもらってばかりでいるつもりだ。
集中力を最大限まで高める。あいつの動きをじっくりと観察する。
あの巨体から攻撃を繰り出すんだ。その時が絶対にチャンスになる。
そして、あの強力な攻撃を行う時にどこかに無理が発生しているはずだ。
それを見つければ、必ず勝てる。
あいつの攻撃が空振りになる。これで10回目の回避だ。そして、あいつの体が左に傾いた。そうか、重心か!
あいつの重い攻撃は、衝撃波までともなうほど強力なものだ。
だからこそ、それを支える脚に無理が生まれる。
さっきの攻撃も俺がうまくかわしたから、完全にバランスを崩していた。
「みつけたぜ、鋼鉄野郎!」
俺は立ち止まって、敵の攻撃を誘発させる。
鋼鉄の騎士は、じっくりと俺に近づいて、剣を振り上げた。
チャンスは一度だけ。
あいつが攻撃を振り下ろしてきて、刃が俺に届くまでの一瞬を突く。
「アレク、俺は今から、少しだけお前に近づく」
刃が衝撃波をともなって、俺に襲いかかる。
それがチャンスの瞬間だ。
俺は、あいつの足に向かって突進した。
「斬・鉄・剛・剣」
金属を切るために編み出した切り札を俺はあいつの足に向かって炸裂させた。
轟音がダンジョンが響き渡った。
そして、審判の時はやってきた。
※
俺が、ボリスと初めて出会ったのはいつのころだったかな。
たぶん、俺たちがA級冒険者の時だったはずだ。
俺とニコライは急成長の若手冒険者で、将来のS級最有力とか最年少記録を塗りかえる天才少年たち、チャイルドブランド、ニコライ世代。とにかく、チヤホヤされて、俺たちは調子にのっていた。
そんな時に出会ったのがボリスだった。
そして、俺たちは、ボリスとの決闘で
俺だけじゃなくて、ニコライにも、剣で圧勝した天才。この事実は、俺に恐怖心すら植え付けるほどのものだった。
だって、そうだろう。
俺は、世界でニコライの次くらいには強いとうぬぼれていたんだぜ? でも、俺を上回る天才が、目の前にふたりも登場した。
天性の光魔法の使い手・ニコライ。
剣聖の再来・ボリス。
あの時には、ふたりのような才能が俺にはなかった。
だからこそ、ふたりの足りない能力を補うように俺は努力したんだ。そして、今の俺がいる。
あいつは、ニコライと同じくらいの大親友だし、恩人だ。
あいつがいなかったら、俺はここまで来ることができなかったのは間違いない。
そして、その大親友が、俺の目の前でさらなる進化を遂げようとしている。その様子を俺は興奮しながら見つめていた。
ボリスは一瞬の閃光のように、鉄の騎士の足元に近づき、奴の脚に切りかかった。
鋼鉄の脚に対して、ボリスの剣はあまりにも細い。普通に考えれば、弾かるはずだが、あれはボリスの剣だ。貫けないものなど、この世界には存在しない。
ボリスの剣技は、圧倒的な攻めのスタイル。相手の癖や呼吸を観察しながら、敵の弱点を見つけてそこを攻めていく。
その観察力が、あいつの剣技を支えている。そして、この決闘は、その特徴が強く出たものになった。たぶん、今のボリスは、全盛期だ。
鋼鉄の脚は、薄い紙のように、綺麗に真っ二つに裂けていく。重心となっていた脚がやられたことで、鉄の騎士はバランスを崩して、地面に叩きつけられる。
勝負あったな。もうあの騎士は、立つこともままならない。振り返ったボリスは、鉄の巨像にとどめを刺した。
鋼鉄の騎士は、無惨にも、中央から二分されて、完全なオブジェクトになっていく。
「さあ、みんな次の階にいこうぜ」
さらに成長した俺の親友は、笑って俺たちの前を進む。
すげぇよ、ボリス。ここにきて、さらに進化したのかよ!!
やっぱり、お前は天才だ。俺は、いつもお前に助けてもらってばかりだよな……
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