第130話 裁きvs光の矢

 ニコライの連撃が始まった。

 俺は、バスターソードで初撃を受け止める。なんて力だ。防ぐだけで、手がしびれてしまいそうになるくらいの衝撃に襲われる。


 だが、なんとか受け止めることができた。受け流した刃は、今度は横から飛んでくる。


 今までの俺だったらこれでアウトだった。だが、俺にはもう1本頼れる相棒がいる。絶対零度の剣エルだ。


 ニコライの伝説の剣に匹敵するほどの名剣が、俺の1つ目の切り札。


 あいつの続く攻撃を、エルが受け止めてくれる。


「(なんていうパワーじゃ……主様よ、こりゃあ、受け止めるのがきついぞ)」

「(そう言うな。お前じゃなきゃ、絶対に無理なんだからな)」


「やるな、アレク! だが、剣だけじゃねぇんだぜ」


 ニコライは、光の翼で攻撃を仕掛けてきた。だが、それは予想済み。ボリスが俺に教えてくれたからな。


 俺たちの光の翼がぶつかり合う。

 

「魔力の中和か……」


 ニコライは残念そうにつぶやいた、よかったぜ、光の魔術使い同士の決闘なんてはじめてだから、できるか不安だったんだ。


 光の翼は攻守万能の使い勝手だ。ニコライの攻撃にもうまく対処できる。これが2つ目の切り札。


「だが、守ってばかりだと、俺には勝てんぞ、アレク!!」

 さらに、剣撃が飛んでくる。

 魔力のサポートなしの、純粋なパワーで繰り出されるそれは、俺を着実に追い詰めていく。


「これで終わりだ!! アレク、覚悟しろ」

 光の翼を使って、上昇したニコライは、俺に向かって急降下する。

 落下のエネルギーも使って、俺にとどめを刺すつもりなんだろう。


 これは、さすがに受け止めきれない。


「先輩!!」

 ナターシャの声が響いた。


 大丈夫だ。このタイミングが、唯一の逆転のチャンスだからな。


 計画通り……


 急降下したことで、逆にニコライの動きも制限される。俺に対して、直線的な動きしかとることができなくなるからな。


 ここで俺は賭けに出た。

 光の翼に宿っている魔力をすべて開放していく。


「なんだと!!」


 これはニコライも予想外の動きだったんだろう。守備のかなめであるはずの、光の翼を捨てる行為だからな。


 解放された魔力は、無数の光になって、急降下するニコライに向かっていった。

 

 あいつは攻撃する体勢のため、防御することができずに無数の光の矢によって貫かれていく。


「ぐううおおおぉぉぉぉおおお」

 悲鳴を上げながら、あいつは地面に叩きつけられた。


 ここで、ケリをつける。

 最後の切り札を俺は発動させた。


 最後の切り札・無詠唱魔法を……


 倒れ込んだニコライの四肢を俺は上級凍結魔法で、拘束した!


 ※


―ミラル王宮入場門―


「止まれ、じじい。ここは立ち入り禁止だ」

「やれやれ」

 正門から来たが、護衛がわずか10人か。護衛にすらなっていないな。


「おい、止まれと言ってるだろ。戒厳令がでている。命令に従わなければ、殺すぞ!」

 どうやら、最近の若い者は、儂の顔も知らないらしいな。


「ギルド協会基本法の第5条1項を適用する。その道を開けたまえ?」


「何を馬鹿なことを言っている。みんな叩き切れ!」


「ギルド協会は、諸国に対して独立の地位を有する。また、は、諸国に対して監察の権限を有する。勉強不足だな、お前たち」


 ※


「これで決まりだ、ニコライ。おとなしく観念しろ」

 俺は、四肢を拘束した奴に刃を突き付けた。


「さすがだな、アレク……やっぱり、お前は強いよ」

 ニコライは観念したように目を閉じた。


「いつからだ?」

「なにが?」

「いつから、エレンの呪縛から解放されていたんだ……」

「気づいていたか」


「当り前だろう。何年コンビを組んだと思ってるんだ」

「エレンと一緒に逃げているあたりからかな……」

「……」


「少しずつ、冷静になっていったんだ。そうしたら、どうしてあんなことをしたのかと思うようになって……」

「ミハイル副会長から聞いている。お前は、洗脳薬を投与された可能性があるらしい……」


「なるほど、だから、逃亡生活中に俺は、俺に戻ったのか……」

「だろうな。逃亡中は、お前に薬物の投与はできなかったんだろうし」


「よかったよ、最後にきちんと話せて……」

「大丈夫だ、お前は情状酌量の余地もある。頼む、降伏してくれ」


「ダメだ、いくら洗脳されていたからと言って、俺がやらかしたことの責任は大きすぎる。最高の相棒だったお前やボリスのことも傷つけた。ここで死ぬことが、俺ができる責任の取り方だと思っているよ」


「おまえ、まさかわざと……」

「いや、本気だったよ。この半年間で、お前は俺の知っているアレクじゃなくなっていた。もっと別の強さをなっていた。たぶん、それは本来は、俺が身につけなくちゃいけない力だったんだろうが……」

「……」


「この決闘は最後の花道のつもりだったんだよ。お前に切られるなら、俺は本望だ」


「なにが最後の花道だ。なにが、責任の取り方だ。甘ったれるな、大馬鹿野郎!」

「っ……」

「お前は、俺に、俺たちに夢を見せたんだよ。世界の人たちに夢を見せていたんだよ。1回失敗したくらいで、その責任が果たせると思うな! お前はみっともなくてもいいから、戦い続けなくちゃいけないんだよ。それが、お前の責任の取り方なんだよ。甘ったれるのもいい加減にしろよ」


「アレク……」


「俺の手を取れ、ニコライ。お前はまだやり直せる」

 俺は、奴の四肢の拘束を取り除き、手を伸ばした。

 ニコライもゆっくりと手を動かす。


 俺たちの手が再び繋がれようとした瞬間、本当の悪魔が降臨した。


「フフフ、これですべてが出そろったわ」

 エレンの声だ。あいつは、ニコライしか持つことができないはずの聖剣をつかんでいた。


「ミラル王宮に眠る伝説のグレートヒェンの指輪とこの聖剣”天上の恵”、そして始祖の遺産に書かれた知識……これで私は、すべてをそろえることができた。本当は脅しだけのつもりだったけど、あんたたちにここまでコケにされてしまったら、もう後戻りできない。私は人間であることをやめる」


 伝説の聖剣が、黒く染まっていく。


「なにをしているんだ、エレン」


「もう無駄よ、アレク……私は誰にも止めることはできない。天界へとつながるふたつのアイテムを手にした私は、至高の存在なのだからね」

 エレンの足元には、邪悪な色に染まった六芒星が浮かび上がった。


「さあ、いでよ。大悪魔”メフィスト”よ。我に、ありとあらゆる享楽きょうらくを与え給え!!」

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