第129話 ボリスvsニコライ

 俺たちは、半年ぶりに剣を交える。ついに、出てきたのか、ニコライ。

「今までどこにいた?」

「少し探し物をしていただけだよ、相棒!」

「その探し物は見つかったのか?」

「ああ、無事にな!!」


 ニコライは光の翼を作る。どうやら本気らしいな。

「アレク、俺が足止めする。お前も準備してこい!」

 ボリスがそう言って、ニコライの前に立ちはだかる。


「ニコライ! 緊急事態だ、卑怯とは言わせないぞ」

「ああ、お前と本気で戦えてうれしいよ。おい、エレン。お前が欲しがっていたものだ。これでお前との義理は、果たしたぞ。あとは、俺の好きにやらせてもらう」


 そう言って、半狂乱のエレンに指輪のようなものを投げる。エレンは浮浪者のように、必死にそれを受け取った。


 俺は、ナターシャに聖魔法をかけてもらう。あと、数分で準備ができるはずだ。俺たちの目の前では、地上最強の剣術の使い手ふたりによる決闘が繰り広げられる。カウンター型の俺とは違って、ふたりとも主導権を積極的に握るタイプの使い手だ。


 相手に主導権を握られないように、お互いにいくつものフェイントをかけあっている。相手がやりたいことを先回りして潰していくような高度な読みあいがおこなわれている。


 純粋な剣術に関してはやはり、俺はふたりに劣る。

 そう素直に思うほど高レベルの技の応酬が繰り広げられていた。


 だが、これは単純な剣術の大会ではない……

 殺し合いだ。


 時間が長くなればなるほど、剣術以外の選択肢もあるニコライのほうが有利になる。

「さすがだな、純粋な剣術なら、お前がナンバー1だよ、ボリス。俺に連撃を撃つスキも作らせないとはな」

 ニコライは笑った。ボリスは無言で、剣を振るっている。


「だが、リーチの違いが大きかったな」

 つばぜり合いをしていたボリスの体に光の翼が襲い掛かった。


「しまっ……」

 ボリスは、ニコライの剣に気を取られて反応が遅れた。翼の攻撃が直撃し、壁に強く叩きつけられる。


「残念だったな、ボリス。手数の違いだ」


 とどめを刺そうとしたニコライに対して、マイルさんが火炎魔法でけん制する。


「無駄だ、この程度の魔力で俺を足止めできない」

 光の翼で火炎魔法を弾き飛ばした。弾き飛ばした火球は、マイルさんに直撃した。


「きゃあああぁぁぁああああ」

 火炎魔法と光の翼が繰り出す衝撃でマイルさんも壁に叩きつけられる。


「これで2人脱落だな」

 さすがは、本気のニコライ。ボリスが1対1で敗れるなんて、魔王軍の幹部クラス以外に見たことがない。


「ナターシャ、終わりそうか?」

「はい、でも、本当は、あんな危険なところに先輩を行かせたくないんですよ」

「……」

「ニコライは、この前と違って、本気です。私でもわかるくらい彼は強い。だから、先輩……勝ってきてください! たぶん、ニコライに勝てるのは、ここではあなたしかいない。そして、戻ってきたら、また、デートしてください」

 ナターシャは少しだけ力を込めて、俺の背中に抱き着いた。


「ああ、行ってくるよ、ナターシャ」


 俺も光の翼を作り出す。


 ※


「やっと来たな、アレク。準備はできたようだな」

「ああ、ニコライ。これで終わりにしよう」


 俺たちは、お互いに光の翼を出現させた状況で向き合った。


「ふん、歴史上初めての光魔術の使い手同士の激突か。お前とそんな名誉ある決闘ができると思わなかったよ、アレク」

「俺は、お前と決闘なんてしたくなかったけどな」


 俺は、バスターソードとエルに魔力を込めた。


「二刀流か。随分、器用になったな。いや、お前は元から器用貧乏だったよな」

 最初に動いたのは、ニコライだった。


 一気に距離を詰めたニコライの刃が、俺の首筋を狙う。


 俺は姿勢をあえて崩して、攻撃をかわした。光の翼によって倒れることもなく、俺は距離をとることができた。


「相変わらず、防御一辺倒だな。お前らしい」


 ニコライは、俺の魔力も警戒している。安易に距離を詰めないで、俺の剣先を見つめているのが分かった。


「降伏してくれ」


「馬鹿なことを言うな」

 ニコライは、俺の懇願を切り捨てて、斬撃を放った。


 これは、俺が攻撃をかわすことを強要する一撃。下手に左右にかわせば、そこを狙われる。

 ならば、逃げるのではなく、無効化させる。


 俺の光の翼が斬撃を吸収する。


「なるほど、お互いに飛び道具は意味がないんだな」


 ニコライは笑いながら俺にとびかかってきた。


「俺たちが、最初に協力して倒した敵を覚えているか、相棒?」

「忘れるわけがないだろ。間違えて、土人形の縄張りに迷い込んだ時のことだろ」

「そう。俺が、おとりになって、お前が中級魔法で奴を吹き飛ばしたんだ」


 俺たちは、剣を交えながら一番最初の時間を思い出した。


 ニコライは、懐かしそうにそれを語りながら、剣を振るった。

 まさか、こいつ……


「アレク、どっちが勝ってもこれが最後だ」


 オルガノンの裁きの構えだ。


 俺はボリスと違って、この構えを取らせないように、自分から攻めて妨害するような器用なことはできない。そんなことをやろうとしたら、間違いなく切り捨てられる。だからこそ、カウンターだ。この奥義を破って、ニコライに勝たなくてはいけない。


 前回の時は、光の翼がないニコライだったので、攻撃も予想しやすかった。だが、今回のニコライは本気でくる。


 空を飛んで仕掛けてくる攻撃も予想して、かわし続けなくてはいけない。

 前回よりも厳しい状況だな。


 だが、あの時と比べて、俺は3つの切り札を持っている。

 それを使えば、絶対に勝てる。


 あの時とは状況が違うのだから……

 俺は、もう責任ある立場になっている。


 ギルド協会官房長、世界最高戦力、そして、ナターシャの婚約者……


 俺には、世界中の期待も込められている。


 ※


「俺にも、あなたたちみたいに力があれば、みんなを救えたんですかね?」

「すいません。調子がいいお願いだと思っています。でも、俺じゃできないことだから……俺たちの気持ちをアレクさんに託したいんです。聞いてくれませんか?」

「終わらせてほしいんです。もう、こんな気持ちを他の人に味わって欲しくないんです。だから、こんなこと、終わらせてください」


 ※


 海岸で出会ったゲパルトの言葉を思い出す。彼だって、俺に託してくれたんだ。

 エカテリーナだって、俺を助けるために命を張ってくれた。ボリスもニコライ相手に命懸けで戦い時間を作ってくれた。


 俺は、仲間の気持ちに応えなくてはいけないんだ。


 そして、一番に思うのは、やっぱりナターシャのこと……


 ※


「先輩の気持ちなんて、卒業式の日に告白した時からわかっています。だけど、聞いてしまったら、私の目標は達成しちゃうんですよ。たぶん、幸せでどうしようもなくなってしまう。もう満足してしまって、戦わなくてもいいかなって思ってしまう。それを許してくれる先輩の優しさに甘えるだけの存在になってしまう。そんなんじゃ、私は本当の意味で、先輩の隣にいる資格がなくなってしまうからです」


 ※


 ここで、負けてしまえば、俺だってナターシャの隣にいる資格がなくなる。

 あの卒業式の時の約束も、温泉の夜の時の誓いも果たせなくなる。


 そんなことが許されるわけがない!!


 俺は、意識を一気にニコライの動きに集中させた。


 俺と親友の最後の一騎打ちが始まる。

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