第128話 才能の違い

「調子に乗ってるんじゃないわよ!! たかが、雑魚ふたりを片付けたからって……私が、あんたに負ける!? そんなことありえない。私は世界最高の魔力の天才よ。アレクがどんなに強かろうが、最高の魔術師は私。あんたはしょせん、器用貧乏の魔法戦士。私は、世界の魔術師のあこがれ大賢者エレン。それが事実」


 自称天才がなにかのたまっている。


「私が世界の称賛を受けるはずだった。なのに、どうして器用貧乏のあんたが、私の名声をすべて奪っちゃうのよ。納得できない、ありえない。本当の天才は、わたしなのにっ!?」


「それが、お前が狂った理由なのか。俺をニコライと仲違いさせて、パーティーから追放させて、勇者の道を踏み外させて……教団の部下をおもちゃのように扱って……クーデターでたくさんの血を流して……たくさんの人の生活をめちゃくちゃにしたのは……それが原因なのか?」


「そうよ、すべてあんたのせい」


 こいつは馬鹿だ。


「お前は、そんなことのために、たくさんの命をもてあそんだのか!!」


「そんなこと? 違う、私にとっては名声がすべて。あんたはそんなこともわからない馬鹿なのね」


 エレンが天に向かって、両手を掲げる。

 憎しみを込めた詠唱が聞こえてくる。


 これは……


「あんたは、私の奥義で殺してやる。魔力文明が封印した魔法の中でも、最も強力な破壊力を持つ火炎魔法よ。さすがのあんたでも、これは相殺できないでしょう?」


 地獄の業火ヘルファイア


 エレンの最強魔法であり、世界最強の攻撃魔法でもある。

 使える者は、エレンだけ。


 半年前までは、そうだった……


 でも、今なら……


「なによ、その構え! まさか、猿真似? 最後まで痛いわね」

 言ってろ。


 ダブルマジックと無詠唱魔法を鍛えて、過去最高の魔法キャパシティーになっている今の俺なら、間違いなくコピーできる。


 詠唱は何度か聞いたことがあるので、もう暗記している。


「おい、アレクにすごい魔力が集中しているぞ。もしかして、できるのか。あの伝説の攻撃魔術が……」


「先輩すごい。どんどん魔力が限界を超えていく。もしかしたら、あの女よりも、もっとすごい魔術になっているじゃ……」


 最高のコンディションだ。

 今なら、どんな魔術でも使いこなせる気がする。


「嘘よ、嘘よ、嘘よ……どうして、私の最強魔法をコピーできているのよ。古の最強魔法よ。たしかに、あんたは何度もこの魔力を見たかもしれない。でも、たったそれだけで……そんなことができるなんて、本物の天才……うそだあああああぁっぁぁぁぁああああ」


 エレンは絶叫して、魔力を放った。


 ※


 2つの火球は激しくぶつかり合う。

 同じ術式のぶつかり合いならば、術者の魔力によって勝敗が決まる。


 これは俺とエレンのどちらが、世界最強の魔術師か決める決闘だ。


 だが負ける気はしなかった。


「くそおおぉぉぉおお」

 エレンは、これが精一杯のようだ。

 かなり苦しそうな声を出していた。


「そんなものなんだな。お前の実力は……」


 俺は、先ほどと同じ詠唱をもう一度、繰り返した。


「嘘だろ!?」

 ことの異常性をボリスはすぐに理解していた。


「まさか、先輩……連続であの最強魔法を撃てるんですか?」


 そうそのまさかだ。


 一発放ってみてわかった。俺には、まだ余力がある!!

 ダブルマジックと無詠唱魔法のおかげで、俺の魔力総量は格段に上がっていた。


 さすがに、地獄の業火クラスの魔法は無詠唱では厳しいが、詠唱をすればそのサポートもあって魔力を撃つのが楽になる。

 だから、もう一発追加してやる。


 お前の肥大化したプライドが、すべての元凶なら、そのプライドごと、打ち崩してやる。


「嘘よ、嘘よ、この世界最強の魔術師が負けるわけがないわ。あんたいったい何をするつもりなのよ。私以上の魔力の天才なんてこの世には、存在しない……はずぅ」


「受け入れろよ、エレン。これが結果だ!」


 俺は、さらに巨大な火球を放った。

 巨大な爆発がエレンを襲った。


「きゃあああぁぁぁああああ」

 魔女の絶叫が玉座の間にこだまする。



 爆発の火炎と煙が収まった後、そこにはエレンが力なく横たわっていた。


「さすがの魔力防御力だな。威力を相殺して、なんとかしのいだか」

 しぶとい奴だな。


 俺は、エレンをよく見る。

 彼女の左腕は、爆発の衝撃のせいだろう。吹き飛ばされて、跡形もなく消滅している。


「私の手、なくなちゃった……痛い、熱い、死んじゃう……いやあああぁぁぁぁあああああ」

 現実を直視できない悪女は、半狂乱になっている。


「その痛みは、お前が切り捨ててきた人たちの苦しみだ」


「私は、選ばれた人なのぉ。いやだ、どうして、この後、私はどうなるのぉ。助けて、助けて、誰か助けて」


「ここでお前は殺さない。きちんと、裁判を受けさせる」


「なんで、私をさらし者にするのぉ。いやあああぁぁぁああああ」


 杖の先端を、俺に向かって抵抗するものの、俺はそれを簡単に弾き飛ばした。


「哀れだな、エレン。おとなしく捕まれ」

 俺がみねうちで、エレンの意識を失わせようとした瞬間だった。


 奴は、高速で俺に近づいて、剣を弾いた。


 ここで来るのか、ニコライ……


 俺はすぐさま奴らと距離を取る。ニコライは、エレンほど甘くない。


「久しぶりだな、アレク。決着をつけようぜ」


 俺たちが、再び刃を交える時がやってきた。

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