第125話 うらぎり?
敵の待ち伏せ。もしかしたら、俺たちの魔方陣がばれていたのか? だが、ここでは、もうひとつの可能性の方が高いだろう。
ギルド協会もしくは、臨時政府内にいる裏切り者によるリークだ。
突入時間は、俺たちにゆだねられていて、魔方陣の場所も特定の者しか知らなかった。
具体的には、魔方陣を設置したイーゴリ局長たちと副会長、そして、領主様及び7選帝侯。
俺たちは、場所も知らされていなかったので、容疑者からは外れる。
だが、今はそれどころじゃないな。仲間を呼ばれたり、人質に害が及ぶ前にこいつらを無力化させる。
俺は、無詠唱で魔力を発動させる。
すでに、ボリスとイーゴリ局長も動いていた。
さすがは、修羅場と言うのも生ぬるい地獄を生き続けてきたS級冒険者だな。
頼りになる。
襲い掛かってきた兵士をボリスは、簡単にねじ伏せる。
その間に、敵半分を俺の氷結魔法で無力化した。
俺は後ろを振り返る。後方の敵は、イーゴリさんに任せている。
彼は、珍しい才能の持ち主だ。
本来ならば、前線に出ることはない後方支援職とも呼ばれる。魔力石などの素材を使って、アイテムを作り出す。商人や職人になるのに、適した職業だが……
イーゴリさんの魔力容量は、前衛職をはるかに上回る。
よって、本来なら後方支援職なのに、バリバリの前衛型。
彼は、自分の作り出したアイテムに魔力を注ぎ込んで、自由自在に動かすことができるのだ。すさまじい魔力を消費するため、S級魔導士に匹敵するほどの魔力容量を持つ彼しかできない戦闘スタイルだ。
「ゴルディアスの結び目」
彼は、魔力がほどこされた無数のロープを武器に変えた。
縄とは思えないほどの強度を持ったそれは、しなやかに数十人の兵士を拘束した。
これで相手の口も縄で塞いだので、応援を呼ぶこともできなくなった。
「アレク官房長、みんなに補助魔法をかけてください。このままでは、居場所がばれます。すぐに突入です」
イーゴリ局長は冷静に事態を把握している。俺も、同じ意見だ。
「わかりました」
裏切り者が誰か特定したいが、そんな余裕もない。どこまで、敵が防衛陣地を作っているかわからないが、先ほど以上に時間との勝負になってしまった。
気を付けて、前に進まなくていけない。
もうすでに、賽は投げられているのだから。
俺たちは、一気に前に進む。ナターシャとマリアさんが索敵魔法で調べたところによると、周囲に敵はいない。
「こっちです」
森の木の下にあった巨石の下に、隠し通路が隠されていた。罠の気配もない。
「マイル、例の準備だ」
イーゴリさんがそう指示する。
「了解」
マイルさんが、詠唱を始めると、俺たちがいる場所とは逆の方向で、大きな爆発が発生する。
「陽動の魔力爆発か……よし、みんな行くぞ」
俺たちは、王宮に突入した。
※
「皆さん、こっちです」
イーゴリ情報局長とボブが俺たちを先行してくれる。
地下の通路は複雑な迷路だった。
ボブさんが、一番前でドンドン進んでいく。
「あの人、道全部覚えているんですか?」
エカテリーナは驚きながら、イーゴリさんに問いかける。
「ええ、彼は元々、この国の貴族出身で、記憶力も抜群なんですよ。だから、このチームに加えました」
「すごいです。瞬間記憶能力でも持っているみたい」
何度も左右に曲がり、俺たちは突入ポイントにたどり着いた。
「この上が王宮のホールです」
ここからは、いくつかのチームに分かれる。
マリアさんとエカテリーナは王宮の3階に向かい俺たちの援護に必要な状況の確認と通信の確保を行う。俺たちは、魔道具の端末を持たされている。これをマリアさんが操作し、協力する手はずになっている。
イーゴリさんとボブさんは、人質がいると思われる1階の捜索だ。王太子様と副騎士団長さんの証言から、おそらく1階の会議室に集められていると思われる。そこに向かってもらうことになっている。
そして、残りの俺たちは2階の玉座にマイルさんに案内されて、向かうことになっていた。
きっと、ニコライたちはそこにいるはずだ。
エレンの思考を読めば、そこにいないはずがない。自己顕示欲の塊みたいな女だからな。
「それでは、作戦スタートだ!」
※
―エカテリーナsideー
私たちは、階段を上って王宮の屋根を目指した。
3階は特に、戦略目標もないはずなので、守備は手薄なはず。
通信用の魔力道具は、なにも遮るものがないほうが、安定する。なので、屋根をふたりで確保して、私の弓の遠距離攻撃で敵を排除しつつ、皆を援護することになっているわ。
唯一、S級冒険者がいないチームだけど、一応A級冒険者ふたりだからS級クラスの脅威がなければ、大丈夫。
「エカテリーナさん、前に敵が3人います。まだ、気が付いていません」
「わかりました」
私は、催眠薬を込めた弓を3本放った。マリアさんの索敵魔法と私の弓矢があれば、敵に近づかせることなく敵を無力化できる。
兵士たちは矢に気が付かないようで、防御行動もなく、なすすべもなく矢の直撃を受けた。
「的中です、さすがです!」
よかった。催眠矢は殺傷能力はないが、直撃させた相手を強烈な睡眠薬で眠らせることができる。
「うう」
兵士たちは、まだかろうじて意識があった。
「マリアさん、ちょっと待ってください。この兵士たちから情報を聞き出しましょう」
私は、このチャンスを逃さないように、兵士たちに近づいた。
「おまえたちは……」
兵士は、ほとんど体が動かせないようだ。
「あなたたちは、ここで何をしているの?」
意識が混濁しているので、もしかしたら自白してくれるかもしれない。
「探している……」
「探している? なにを?」
「さがし……う。せかいの……じつを……」
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