第118話 逃亡勇者は幸せな日々を思い出す

<ニコライside>

 夢を見た。

 俺は、アレクとボリスの3人でクラーケン討滅の祝賀会からの帰路にいた。


 アレクは、クラーケンを倒すために、必死になってあいつを足止めしてくれた。

 ボリスは、俺の護衛を確実にこなしてくれて、血路を開いてくれた。


 そして、俺は、相棒と親友に感謝しつつ、魔王軍幹部を撃破した。


 世界は、俺たちを真の勇者パーティーだと褒めたたえてくれて、数々の勲章を与えてくれる。

 そして、俺とアレクは、史上最年少でS級冒険者に昇進した。


「俺たちは、ついにS級冒険者だ! 魔王軍幹部でも相手にならないまさに、世界最強のパーティーなんだよな!! おまえら、俺について来いよ。今度は、3人で伝説級冒険者だ」


「調子に乗りすぎだぞ、ニコライ!」

 ボリスが笑う。


「いや、そのくらいじゃなきゃ、勇者は名乗れないだろ!」

 アレクがいつものように優しく俺をサポートしてくれた。


 気の合う仲間たちと、うまいワインをたらふく飲んだ最高の時間の思い出。


 大親友と世界からの称賛。

 まさに、最高の瞬間だった。


 それなのに……


 ※


「アレク、お前には悪いが、パーティーを抜けてくれないか」

「なんでだよ、ニコライ。俺とお前は最強のコンビじゃないか!」

「そう思っているのは、お前だけだよ。もう後釜なら決まっているから、はやく出ていってくれ!」

「嘘だろ……」


 ※


 俺は親友の絶望する顔を、「ざまあみろ」くらいにしか思っていなかった。


 そして、俺はあいつをさらにけなした。


 ※


「お前はいつもそうだ。説教くさくて、たしかに、一番の古株だけど、実力はパーティーの中で最弱で…… お前がいなければ、もっと早く俺たちは魔王を討伐できたかもしれない。全部、お前のせいだ。俺の前から早く消えてくれ!!」


 ※


 あの時、俺は自分がS級冒険者になった時のような高揚感を感じていた。

 同じS級冒険者の親友ですら、生殺与奪せいさつよだつの権利は自分にあると実感できたから……

 俺が世界最強だって自覚できたから。


 そして、傲慢な態度は、ボリスにも及んでしまった。


 ※


「様をつけろ、この馬鹿野郎」


 ※


 そして、俺は世界で一番大事なはずのふたりの親友をほぼ同時に失ったんだ。

 それ以来、俺はやることなすことすべてうまくいかない。


 やけくそで、アレクに決闘を挑んでは返り討ちにあい、情けなく見逃してもらい……

 ギルド協会に違法行為をとがめられて、病院に幽閉されて……

 挙句の果てに、大罪人としてすべての名誉も失い、洞穴に隠れてビクビク過ごす。


 あの人生最良の時間から、まだ3年しか経っていないのに……


 どうして、こうなってしまったんだろう。

 生涯最高の相棒と親友が、俺の横でいつも笑ってくれていたはずなのに……

 そのふたりから、俺はたくさん大事なものを教えてもらっていたはずなのに……


 今でも俺たちは、厳しくも楽しい冒険をしていたはずなのに……


 どうして、こうなってしまったんだろう……


 目が潤んでいく。口からは土の味しかしない。


「戻ってきてくれよ、アレク」


 俺は、洞穴でひとりそうつぶやいた。



<エレンside>


 私は最後の希望をこめて、残存する駒たちとともに、乾坤一擲の勝負に出る。

 私をここまで追い込んだ世界を許しはしない。


 私は悪くない。すべては、世界が悪い。


 


 私は生まれた時から、お父様と信者から期待される存在だった。勉強はよくできたし、魔力容量も申し分ない。

 まさに、「神童」。

 みんなそう褒めたたえてくれた。


 でも、教団を離れると、私はいつも一人だった。同年代の人間たちからは、カルト教団の娘と蔑まれ、大人たちは腫物のように私を扱う。


 私がどんなに魔力の勉強を頑張っても、それは私を気味が悪いと考える人たちからけなされる。


 私は、頑張ったことを褒めてほしいだけなのに。


 こんなに頑張っているのに、私を認めない世界は、世界が間違っている。ならば、私の本当の実力を示そう。


 親元から離れて、遠くの魔力学院に通い、私は天才として、在学中からいくつもの賞を獲得。

 歴史上でも10人しかいない賢者の称号を与えられて、勇者パーティーにも迎え入れられた。


 これで私も英雄。私を褒めない人はいない。


 そう思っていた。でも、そうじゃなかった。勇者パーティーには、私を超える天才がいた。

 それが、アレク……


 本人は自覚がなかったが、魔力においては抜群の才能を誇っていて、ダブルマジックも使える歴史上でも屈指の魔力使い。

 彼の才能は、ニコライの勇者という大きな才能で隠れていたが、もう隠しきれないほどの力になっていた。

 だから、私は彼を社会的に抹殺しようとしたのだ。彼の名声が高まれば、高まるほど私の立場はなくなっていくから……


 ニコライを篭絡するのは簡単だった。彼の心の隙間を、私が優しく埋めてあげるだけで彼はすぐに、私の虜になった。あとは、「アレクにいじめられている」とか「アレクがあなたの悪口を言っていた」とささやくだけだった。


 でも、それが彼の才能を開花させることになるなんて……


「全部は、アレクのせいよ。あいつさえ、いなければ……」

 私はもう、悪魔に心を売っている。親殺し、そして、堕天。


 こんな洞穴でどろどろになって寝るなんてもう耐えられない。


 私はこの世界すべてに復讐してやる。


 あの王宮は、儀式の場として最適だ。


 あそこにすべての環境が整う。


 邪龍よりもはるかに凶悪な手段で世界を崩壊させてやる。


 ニコライが犠牲になっても構わない。アレクとこの世界が滅びるなら……


「エレン様、。王宮に向かいましょう」

 従者が、そう言って私に促す。ああ、はじまるのね。


 終極への輪舞ロンドが……


「わかりました。行きましょう。天上の恵も万全でしょうね?」

「もちろんでございます」


 私は勝利を確信し笑みを浮かべた。

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