第117話 始祖

 じゃあ、一体、空中魔法都市っていったい何だったんだ。そして、どうして高度な文明を誇った都市が滅亡したんだ。さらに、天地開闢の図に書かれている天使は一体……?


「なら、空中魔法都市に関連する遺跡は、世界に散らばっているんですね?」

「だろうね」

「空中魔法都市の住民が、俺たちが呼ぶ"始祖"なんですよね」

「ああ、確証はないが、きっとそうだろう」

「じゃあ、始祖たちは、一体、何を目指して、この遺産を残したんでしょうか?」

「……」


 まさに、「語り得ぬものについては沈黙しなければならない」か……


 だが、推論を言えば、2つの目的のどちらかがあったはずだ。


 たいていの遺物は、その技術などを後世に残すための"記録"としての役割を持つ。

 しかし、それ以外のものは、ある意味ではもっとやっかいな意味を持つ。


 それは……


「後世への警告」だ。


 古代人たちが犯してしまった失敗を伝えて、同じ過ちを繰り返させないように伝える。

 この天界文書や天地開闢の図の戦争の様子を見ると、俺は、警告としての意味合いが強いんじゃないかなと思う。


 あまりにも、物々しすぎるし、あの朽ちない技術は俺たちには伝わってきていないのだから……

 本来伝えるべき技術が伝わらずに、その説明文だけが残るのは、おかしい。


 つまり、あれは警告文なのだ。

 なにかしらの禁忌タブーを犯し、崩壊カタストロフィした古代文明が俺たちに伝えようとしているのだ。


 道を誤るな、と。


「領主様、古代文明の遺跡は、ほかに見つかっていないんですか?」

「ああ、天地開闢の図と天界文書が出土した遺跡以外はまだ、見つかっていないね」

「では、まだ見つかる可能性はあると?」

「その可能性は高いと思う、あくまで私見だがね」


 なら、俺たちの冒険の目的もひとつ追加された。

 古代人が俺たちに伝えたかったことを、見つけなくてはいけない。


 なぜか、それが俺が持つ義務のように感じられた。


「長々と話してしまったね」

 領主様は、さっきから砕けた口調になっていった。政治家としてではなく、盟友や同僚として俺たちに接してくれているのかもしれない。


「いえ、こちらこそありがとうございました。とても勉強になりました」

 俺とナターシャは、感謝をこめて頭を下げた。


 これで無事に今日の面会は終わりだ。

 そう思った瞬間……


 


 執事さんが、慌てた様子で部屋に入ってきた。


「ご主人様! 大変です!! 今、首都から連絡がありました」

「どうした? 来客中だぞ!」

「申し訳ございません。しかし、アレク様達にもお伝えしなくてはいけない内容なのです」


 執事さんから、なにかメモを受け取ると「なっ」と領主様は絶句する。


「何か、あったんですか?」

 俺たちは、心配になって聞くと、領主様は無言でメモを手渡してくれる。彼の手は、小刻みに震えていた。


 ※


 マッシリア王国王都ミラルにて、クーデターが発生。国王陛下及び宰相以下の閣僚は、拘束された模様。


 ※

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る