第64話 男の友情

「いや~すごいもんをみたぜ」

「なんだよ、あの異次元の決闘は!!」


「アレクさんの最強のカウンターをあえて撃たせることで、勝負を決めるボリスさん。S級対S級ってあんなにすごいのかよ!?」

「人類の限界にいるひとたちだからな」


「ボリスさんの剣術やっぱり単体なら最強なんだな。アレクさんも強いけど……」

「だって、アレクさんは万能型だからな。剣だけでもあれだけ戦えたんだから、魔法有りの実戦ならやっぱりアレクさんなんだろうな」


「魔法による遠距離攻撃も世界最強クラス。剣術もボリスさんと互角に戦えるレベル。さらに勇者だけが使えるはずの光の魔術まで使える!! "世界最強のオールラウンダー"ってやっぱりすげェんだな」


「さすがは魔王軍幹部を次々に潰している人だよな」


 ギャラリーたちはすさまじく盛り上がっていた。


「さすがに派手にやり過ぎたようだな、アレク!」

「目立ちすぎたからな。昼にしようぜ!」


 俺たちは、逃げるようにしてその場を去った。


 ※



「朝から動いたから、腹減ったな」

「ああ」


 俺たちはおしゃれとは無縁の大衆食堂に入った。ここならがっつり食事ができるだろう。


 野菜炒め定食と鳥の甘酢あんかけ定食を注文した。

 冒険者大好きなガッツリ飯だ。


 俺の野菜炒めには、豚肉とキャベツ、オニオン、キャロットなどの野菜に、ジンジャーとガーリック、そして、独特の茶色いソースがかけられていた。どうやら、東の大陸特有の調味料"みそ"というものが使われているようだ。食堂のおじちゃんの話では、この大陸では、甘いみそ、辛いみそ、しょっぱいみそがあって、料理によって使い分けられたり、あわせて使われたりするらしい。


 ボリスの鳥の甘酢あんかけは、鳥を素揚げしたものに、大きめの野菜が添えられていて、甘酸っぱいソースがかけられていた。野菜は、オニオン、キャロット、じゃがいもだろうか? だが、じゃがいもとは少し色が違うな。


 おっと、つい農村暮らしの癖がでてしまった。最近、いろんな野菜に興味津々になってしまう。


 大盛りのライスと付け合わせの漬け物とスープも届いたので、俺たちは食事を堪能した。


 ※


「うまかったな」

「ああ、最高だった」


 俺たちは、大盛り定食を平らげると、一息ついた。


「じゃあ、ここは奢らせてくれよ、ボリス。さっきの授業料だ」

「いいのか?」


「ああ、ヴァンパイアと邪龍討伐の時も、お前に助けてもらったからな。そのお礼もある」

「そんなこと言うなよ。俺だって助けられている。それに、高い酒を奢る約束もまだ果たしてないぞ?」


「それは帰ったときの楽しみにとっておくよ」

「ありがとうな、アレク!」


「ああ、気にするなよ。仲間だからな」

「そう言ってもらえると、本当に救われるよ」


「おおげさだな」


「いや、本心だ。やっぱりお前と出会えてよかったよ。あのとき、お前に手をさしのべることができなくて、本当にごめん」


 追放されたときの話か。もしかしたら、ナターシャじゃなくて、ボリスが俺を助けてくれる世界もあったかもしれない。


「もう、終わったことだろ? それにお前は、今は俺に手を差し伸べ続けてくれてる。感謝するのは、俺の方だぜ! 相棒!!」


 ボリスの目は少しだけ潤んでいた。

 結局、昼間から酒をあおる計画はこうして頓挫したが、俺は別のものに酔っていた……


 ※


「じゃあな、アレク!」

「おう、ボリスはどこにいくんだ?」

「俺は、ちょっと珍しい武器があるという武器屋をのぞいてくるよ」

「そっか、じゃあ、また明日な!」


 そう言ってボリスは街の中に消えていく。


「俺は宿で昼寝でもするかな」

 ひとりで散歩しながら、帰る。


「あら、アレク君じゃない?」

 女の人から呼び止められた。


「マリアさん! あれ、ナターシャとお茶会じゃないんですか!」

「それは、あと1時間後よ。いまはあてもなく、ぶらぶら散歩中。よかったら一緒にどう?」

「なら、お言葉に甘えます。実は俺も暇にしてて。宿で昼寝でもしようかとおもっていたんですよ」


「世界の英雄さんがずいぶんのんきね」

「俺は基本的にのんきですよ?」


「戦闘中のあのカッチリした姿からは、想像できないわ。でも、さっきの宿の前での決闘すごかったわね。ボリス君と剣術でも互角とか才能に嫉妬するレベル!」


「持ち上げすぎですよ」


「そう? そこらへんはみんな否定しないと思うけど?」


 そう言いながら、俺たちは海沿いを散歩する。気持ちいい潮風とともに。


「邪龍を倒してから、久しぶりにゆっくりできたわ」

「ああ、ヴァンパイアを倒してからも、マリアさんたちは休暇なしだったんですもんね。なんかすいません。俺たちだけ、長い休みを取ってしまって」


「そこは気にしないで。アレク君は、協会の戦力として期待されているんだから。あなたにはできる限り万全の状態で待機してもらって置くことが、私たちからしても重要だもの」


「そういってもらえると、救われますね」


「それに、アレク君はデスクワーク苦手そうだしね」


「……」

 やばい、否定できない。


「困った顔もかわいいわね!」

「あんまりからかわないでくださいよ」


「あなたのその年相応の若者の顔を見ると安心するわ。戦場での合理的判断力、類い希なる発想力を見ているから特にね」


「そんなにギャップありますか?」


「ええ、女の子はそのギャップにいちころね。ナターシャさんもきっとそうなんじゃないかな?」


 大人の女の人の余裕怖い。なに、これ。こんなこと言われたら勘違いされちゃいますよ。もっと自分の美貌を自覚してください!!


「本当にからかいがいがあるわね。キミも、ナターシャちゃんも?」


 俺が顔を真っ赤にしているのを見て彼女は笑う。


「……」


「アレク君、本当にありがとうね。今は協会のマリア局長としてではなく、ひとりの女として言わせてもらうわ。あなたがいなければ、私はここにいない。あなたがいたからこそ、私たちはこうして散歩できている。だから、もっと胸を張った方がいいわ」


「ありがとうございます」


「それに、昨日と今日、違う女の子をはべらせながら、デートできているなんて幸せ者なんだからね」


「えっ、どうしてそれを知っているんですか?」


「ふふ、私は情報担当官よ? 二股なんていけない子っ!」


 怖い位の笑顔だった。


「弁解させてください。二股なんかじゃない!」


「それは、私じゃなくて、後ろのかわいい後輩にしたほうがいいみたいよ?」


「えっ?」


 後ろに振り返ると、昨日めちゃくちゃイチャイチャした後輩が、死んだ目で俺たちを見つめていた。


「セ・ン・パ・イ! まさか、昨日の今日で、私とは別の人とデートしているなんて、ずいぶん命知らずですね? 埋まりたいですか? それとも、沈みたいですか?」


「なんだよ、その選択肢は! 誤解だよ、誤解!! 俺は、マリアさんとそこでばったり会ったから、ただ、散歩してただけで!」


「それをデートって言うんじゃないんですかね?」


「デートね、間違いなく」


 マリア殿の裏切り!


 やばい、詰んだ。


「もういいです! このまま海に落ちちゃってください!!」


 俺に危険タックルが炸裂した……

 秋の海はとても冷たいはずだ……

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