第65話 新しい家族

「帰ってきましたね」

「ああ」


 俺たちは、再び村に帰ってきた。

 大量のお土産を持って……


 なんとか軽量化魔法と馬車のおかげで持って帰ってきたけど、さすがに買いすぎだ。

 明日は1日中、村のみんなの家を巡ってお土産を配らなくてはいけないだろう。


 ついでに、俺はバスターソードと絶対零度の剣の2本の剣を持つことになったから手入れもきちんとやらないとな。


 明日はやることだらけだ。


「(ほう、ここがお主らの家か?)」


「ん? ナターシャ何か言ったか?」

「言ってませんよ?」

「だよな」


 馬車を家の前に止めて、馬たちを小屋に誘導しているわけだから、俺たち以外はここにいない。


「(なんじゃ、ここじゃよ、ここ!!)」

 まただ、また誰かに話しかけられている。


 それにこの声はどこかで聞いたことがあった。もしかして……


 俺は、新しく手に入れた剣を見つめた。


「おまえか?」


「(正解だ、新しき主人よ)」

 やはり、双頭龍か。


 なんだよ、お前。普通に話せるのかよ。


「(ああ。邪龍討伐ご苦労だったな。やはり、我々が見込んだ通りだったよ。ありがとう。これで我ら兄弟も使命から解放される)」


 考えていることもわかるのかよ。


「(これからもお世話になるよ。そうだ、この剣のままでは、面白くもないだろうな)」


 えっ!?


「(なに、ちょっとしたサプライズだよ)」


 そう言うと、剣は光に包まれる。

 まさか、ドラゴンに変わるんじゃないのか? ここで、双頭龍になってしまうと、村の人たちがパニックになっちゃうぞ!


 頼むから、ちょっと自重してくれよ。


 そう思いながら、絶対零度の剣の変形をみつめる。

 剣は少しずつ小さくなり、小動物のような見た目に変化した。


「「えっ?」」

 ナターシャもその変化に気がついたみたいで変な声を上げた。


 だって、それは元の双頭龍や絶対零度の剣よりもさらに小さくなる。


 青く美しい毛並みをもった小龍。

 俺の愛剣は、かなりファンシーな小動物に変わってしまった。


「ふぅ、こんなものかなァ?」

「ずいぶん、小っちゃくなっちゃったな」

「それも、話し方も双頭龍のときと全然違ってますね!」


「まァ、ご主人様の気持ちをくんで、ペットとごまかせるくらいの大きさになってあげたんだよォ。言ってくれれば、すぐに剣にも元の大きさにも成れるからねェ。ちなみに、この姿でも、最上位魔法クラスの吹雪はふけるからねェ。全力で、アレクしゃまとナターシャしゃんをお守りできるよォ」


「御年、数百歳のドラゴン様だとは思えないかわいさだな」

「すごくかわいいです。新しい家族ができちゃいましたね、センパイ!!」


「よろしくお願いしまぁす。エルって読んでもらえると嬉しいなァ」


 そう言って、もふもふの頭を俺たちにすりつけてくる小動物。

 やばい、伝説のドラゴンなのにかわいい。


 ナターシャも嬉しそうにエルの頭をなでていた。


 俺も内心で少し嬉しくなった。こういう田舎生活も悪くないからな。


「よろしくな、エル!」

「はい!!」


 こうして俺たちの新しい生活がはじまる。


 ※


 次の朝。


 俺たちはドルゴンたちにお土産を持って行った。朝、畑を見ると雑草一つないほど綺麗に手入れされている。ふたりが忙しいのに、本当にきちんと面倒を見てくれていた証拠。


「アレク様!! 戻ってきたんだね。すごかったね、邪龍って怪物倒しちゃったんでしょ? みんなすごいって褒めてたよ! やっぱりすごかったんだね、ふたりとも!!」


「ドルゴンもありがとうな。畑、とても綺麗だったよ。頑張ってくれたんだな!」


「うん、妹と毎朝手入れしたんだ!! もうすぐ、ジャガイモも収穫の時期だよ!」


「いつもありがとうな! これ東の大陸で買ってきたお菓子だから、みんなで食べてくれ!」


「うわ~ありがとう!! これ甘いやつ?」


「そうだぞ! 東の大陸の伝統のお菓子だ。豆でつくった甘い餡が入っているんだ」


「やったー! 甘いやつは高級品だって、みんな言ってた! さすが、アレク様だよ!」


「向こうでは結構安いんだよ! ほかの野菜がとれたら、またパーティーしような。ナターシャが腕によりをかけてつくってくれるから」


「わーい、ナターシャ様の料理美味しいから、すごく嬉しいよ!」


「楽しみにしていてね! お母さんの調子はどう?」

 ナターシャはお仕事モードになっていた。


「ああ、ナターシャ様。ありがとうございます。おかげさまで、とてもよくなってきましたよ」


 お母さんの体調も良さそうだ。顔色もいい。


「順調みたいですね。顔色もいいし。食生活はそのまま続けてもらって、少しずつ慣らしていってください。リハビリで少しずつ運動しながら、体力をもとにもどすようにしてくださいね」


「はい、なんとお礼を言ったらいいのか……」


「ドルゴン君たちにこちらもお世話になっていますから、気にしないでください、ねっセンパイ?」


「ああ、じゃあ、ここらへんで帰ろうか」


「本当に、ありがとうね、アレク様! 明日にでも一緒に野菜の収穫しようよ!!」


「おう、よろしく頼むな!」


「うん、またね!!」

「またね~」


 ドルゴン兄妹は満面の笑みで俺たちを見送ってくれた。


 ※


「やっぱり、いい子たちですね、ふたりとも!」


「ああ、あんなに素直な子たちは滅多にいないよ」


「ふふ、あのふたりを見ていると、少しだけ将来へのあこがれが増えちゃいます」


「へ~」


「素敵な男の人と結婚して、あんなふたりみたいなかわいい子供と幸せに暮らすって幸せですよね、ねっセ・ン・パ・イ!」


「ああ、そうだな」

 俺は少しだけナターシャの迫力に圧倒されてしまったが、そういう将来を想像して、胸が熱くなるのも感じる。


 そして、これは後から気がついて恥ずかしくなったことだが……


 俺たちは将来、一緒だという前提で、話し続けているのが普通になっていた。

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