第62話 自己評価
「まったく、なんて顔をしているんですか? 先輩はもう世界の英雄なんだから、しゃきっとしてください!」
「でもさ、俺、やっぱり自分が英雄なんて信じられないんだよな。S級になれたのも、ニコライのコバンザメみたいなもんでさ。ヴァンパイアや邪龍を倒した光の魔術もどちらかといえば、ナターシャのおかげだし。ニコライとの決闘も、正直に言えば、あいつの油断を突いた感じだし……」
俺の発言にナターシャは、母親のように笑った。
「先輩のそう言う自己評価の低さは、分析力の高さと献身性から来ているのだと思いますけど…… なんでもかんでも、自分の実力が原因ではなくて、他人や偶然性に勝因を求めちゃうんですよ! それが私の大好きなところでもあるんですけどね! でも、はっきり言います。力あるものは、力があるように振る舞ってもらわないといけないところもあるんですよ」
「力があるように振る舞う?」
「少なくとも、世界ランク1位のニコライさんと、互角に立ち会える存在が異常だったんですよ。普通に油断していてもほとんどの人間は勝てません」
「……」
「聖魔法を体に流しこんだだけで、光の魔法に変えてしまう人なんて、先輩だけしかいないんですよ。史上ふたりめのダブル・マジックの使い手。世界で初めて、補助魔法の重ねがけを成功させた冒険者。魔王軍幹部3人を討伐したすべての戦闘に中核として参加し生き延びた唯一の人間。魔王軍四天王に匹敵すると思われる邪龍を倒した史上最年少のギルド協会最高幹部……」
「(俺のことを言われているのに、どうしてか他人事のように聞こえてしまう)」
「他人事の顔をしているのが、本当になんだかなって感じですけどね。冷静に考えて、あなたは史上最高クラスの冒険者に覚醒しかけています。みんな、嫉妬もあるから認められないだけで…… ポテンシャルだけなら、間違いなくレジェンド級」
「買いかぶりすぎじゃないか?」
ナターシャは首を振る。
「すでに実績が証明しています。あなたは、もう魔王軍からも注目されている存在です。あなたを本気でつぶすためには、四天王クラスを動かすしかないと考えているでしょうね。あなたの存在はもう国家間でも問題になるくらいの戦力です。1国の軍事力をはるかに超えている。だから、王室たちもあなたには最大限の敬意を払わなくちゃいけなくなっている。世界全体が、あなたの一挙手一投足に注目して、恐れられている」
「……」
「そんなすごい人を好きになってしまった自分がなんだか恐れ多くて、どんなに頑張っても近づけないことに焦りと嫉妬で身を焦がしているんですよ、私?」
「そんなことないよ。ナターシャだって、すごくて、俺にはもったいないくらいの女の子だし……」
「ありがとうございます。でも、それとは逆に先輩がドンドンすごくなるのが心地よい自分もいるんです」
「えっ?」
「乙女心は複雑なんですよ! だから、私も頑張るから、先輩ももっと頑張ってくださいね! そして、私にいっぱい世界を見せてください!!」
「ああ、頑張るよ。俺の、いや、俺とナターシャの夢のために、俺もっと頑張るから!」
「違いますよ? もう、私たちふたりだけの夢じゃなくなってますからね。ボリスさんもマリアさんも巻き込んじゃってますから! 先輩は、責任重大ですよ?」
「そう言われると、ちょっと怖いな!」
「
「言い方!!!」
ナターシャはいつものように最後は俺をからかって誤魔化してくれた。俺のために……
「それじゃあ、次の場所行きましょう!!
「だから、言い方!!」
※
買い物の後、俺たちは港町を見学した。
そして……
「「乾杯」」
俺たちはデートの最後の目的地であるレストランでお酒を飲んでいた。
海鮮料理が有名な高級店。ナターシャが、宿の人に聞いて、結構無理して予約してくれたみたいだ。
テラス席で俺たちはまったりと料理をつまみながら、ゆっくりと時間を過ごした。
ワインと美味しい魚料理の数々。
「エビの春巻き」
エビと野菜を炒めて味付けしたものを小麦粉の皮で包んで揚げたもの。
「キンメダイのバター煮」
こっちの港で高級魚として重宝されている“キンメダイ”と貝とキャベツをバターで蒸した創作料理らしい。隠し味にレモンが使われていて、かなり美味しかった。
「魚介と野菜のハーブスープ」
こっちの名前ではトムヤムクンというらしい。海鮮と野菜を魚醤とハーブをたくさん入れて煮込んだスープだ。レモングラスが入っているので、酸味が強く酒によく合う。
そして、酒は白ワインを選んだ。わざわざ、皮を取り除いて作るワインのため、赤ワインよりも少し高級だが、今日は贅沢だ。魚料理に合うので、やっぱりこっちを選ぶ。
「美味しいですね」
「ああ、なんだか本当に旅行しているみたいだ」
「料理人の人は、こっちの大陸を冒険していた元冒険者らしいので、各地の料理を取り入れているみたいですよ」
「たしかに、味付けが料理ごとに違うもんな。シンプルな味付けだったり、独特の味の濃さだったり、ハーブだったり……」
「テラス席で、暗いから、さっきみたいにあーんして、誤魔化さなくてもいいですからね」
「その黒歴史を堀りおこさないで!」
「あれは、私の一生の思い出なので、たぶん消えません!」
「おふ……」
まあ、ある意味、俺も一生の思い出だよ!?
テラス席から見える海には、街の明かりが反射して、キラキラしていた。俺たちはその絶景を見ながら、ふたりだけの時間を堪能する。
「そういえば、先輩? この前、実家から、手紙が来たんですよ。あの村にしばらく定住することと、先輩とパーティーを組むことになったと伝えたからその返信で――返信にはこう書いてありました。『今度アレク君と一緒に遊びに来てください』だそうです!」
「……」
いやな予感がした。ここから先は、俺がナターシャにからかわれる時間のような気がする。
「私の家族に、ちゃんと挨拶してくれますか、先輩?」
ナターシャは白ワインを片手にフフッと笑った。
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