第61話 デート③

「どうですか? ガパオ美味しいですか?」

 俺はいったい何周目のループを終えたのだろうか? ここまですれば、完全に馬鹿ップルに偽装できているはずだ……


「ああ、濃厚なうまみだな。めちゃくちゃうまいよ」

「そうですよね。だって、私との間接キス付きですからね!」

「ごふっ!」

 なんだよ、今日のナターシャ完全に攻めすぎていないか? 旅の恥はかきすてみたいな謎のテンションになっているって、絶対!!!


 隣の席に座った冒険者たちは世間話をしていた。


「しっかし、アレク官房長って……」

 まさか、ここまでしていたのに、ばれたのか?


 俺は少しだけ緊張して、別の客の会話に聞き耳を立てる。


「すごいよな! 俺よりも年下で、S級冒険者兼協会最高幹部の官房長だもんな~」

「それも、この短い期間で、ヴァンパイアと邪龍を連続撃破とかやばすぎだろう!」


「うんうん! 元ニコライパーティーで実績も十分だし、光の魔術持ちで、世界ランク2位。まさに、世界最高戦力! 勇者ニコライも怪我したと聞いて、人類の危機だと思ったのに、見事に代わりを果たしてくれているよな」


「むしろ、世界ランク1位よりも強いまであるしな!」


「そろそろ、実績考慮で本当に世界ランク1位になっちゃうかもな!」


「へ~、そんなにすごいのかい? アレクって人は?」

「なんだよ、おばちゃん知らないのかよ? 今じゃ世界を救いまくっている伝説の英雄状態なんだぜ」


 女店主も冒険者の噂話に混ざっていた。これはあまり長居しないほうがいいかもな……


 俺はデザートのパンケーキを食べながら、内心でヒヤヒヤしていた。俺の顔もナターシャの顔もたまに新聞ででるし……


「そろそろ、行くか!」

「そうですね、先輩!!」


 ナターシャも同意してくれる。こういうところはやっぱり頭がいい。


「おばさん、お会計をお願いします!」

「はーい!!」


「えっ? 私も払いますよ? いつも奢ってもらってますから」

 俺がレシートを握りしめるとナターシャはそう言う。


「いいよ、今日はナターシャを喜ばせる日だからさ」

「ちょっと、卑猥な発言ですね? セクハラですか?」

「おい、神官!!」

 ナターシャは聖職者のはずなのに、たまに発言が際どい。いたずらな笑顔を浮かべているから、俺をからかって楽しんでいるんだけどな!


「なんちゃって、ありがとうございます!」

 まるで、少女みたいな笑顔だった。


「1980ね!」

「はい」

 俺は2枚の紙幣を店主に渡した。


「じゃあ、これはおつりね」

 そう言うと店主は、俺にさきほど支払ったお金をまるごと返してくれた?


「「えっ?」」

 俺たちは驚きながら聞き返す。

 おばさんは小声で言う。


! それに、カワイイ聖女様のお姿も見れたんだからね! 客商売は、人の顔を覚えるのが基本だよ! おふたりとも、お幸せにね!! よかったら、また来てね!」


 おばさんは、にやにやしながらそう言った。すでに、ばれていたのに、俺たちは、なんてことを……


 ふたりで顔を真っ赤にしながら、慌てて外に逃げた。

 

 ※


「ごめんなさい、さっきは調子に乗りすぎました……」

 ナターシャはちょっとだけ落ちこんでいた。


「まぁ、俺も……したことは事実だしな」

「えっ、何だって?」

「おい!?」

「ごめんなさい!」


 結局、ナターシャは悪びれていない。「あーん」の事実は俺の黒歴史として永遠に刻まれる。


 本当に黒歴史だよ?


 決して、ドキドキしたわけでも、内心めちゃくちゃ嬉しかったわけでもないんだからね?勘違いしないでよね!


 なんていう気持ち悪い俺の気持ちはおいておいて……


「じゃあ、次の場所に行こうか?」

「はい!!」


 俺たちはさっきの惨劇を忘れて、デートの続きを開始する。


 次はショッピングだ。


 ※


 俺たちは、土産物屋に入って、村の人たちへのプレゼントを探した。みんな、俺たちが留守の間に、野菜やハーブの世話をしてくれているはずだからな。なにか買っていかないと悪い。


「ドルゴン君たちには、やっぱりお菓子ですよね?」

「そうだな、ドルゴンも家族と一緒に食べられるお菓子が大好きだって言ってたからな!」


「じゃあ、甘いやつにしておきましょうね! たくさん買っても、先輩が軽量化魔法で、軽くしてくれますよね?」


「お、おう!」


「じゃあ、いっぱい買っちゃいますね! お皿とか花瓶ともかわいいのがたくさんあるから、村長さんたち用のお土産もいっぱい買っちゃいますからね!! あっ、この民族衣装もかわいい。ついでに買っちゃいましょうかね~」


「あの、ナターシャさん? たしか、神官の教えに強欲はいけないってやつありませんでしたか?」


「え~、でも~自分のものを相手に与えることも、大事な神官のお仕事です! お世話になっている村の人たちが、神官である私に尽くしてくれているのです。ならば、私も彼らに最高のものを与えねばなりません」


「完全にもっとももらしいことを言って、本音を隠していますよね?」


「だって、こんなに綺麗な民芸品を見ていたら、欲しくなっちゃいますよね?」


「質問を質問で返すなよ!」


「じゃあ、買っちゃだめですか、先輩?」


 ちょっと上目遣いで俺を見つめる後輩兼現代の聖女様。うん、かわいい。


「わかったよ。荷物持ちは任せろ!」


「ありがとうございます!! じゃあ、おじさんこのお皿5セット追加で!!」


「おい、多すぎる!!」


 ※


「さすがに、手がちぎれるかと思ったぞ!」

 大量のお土産の袋を持ったときの絶望感はやばかったぞ。お店のおじさんが、「じゃあ船まで運んでおいてあげるよ」と言ってくれなければ、今日のデートは終わりになったかもしれない。


 そもそも、割れ物がたくさんあるのに、これひとりにもたせるとか、大道芸人にでもさせるつもりかよ?


「まったく、世界最強の英雄のアレク官房長が、情けないですわね~」


「キャラ変わりすぎだろ?」


「少しは嫉妬も入ってますよ? だって、先輩、私がどんなにがんばってもドンドン前に進んじゃうんだもん!」


「嫉妬? ナターシャが俺に? だって、おまえは俺ができないことたくさんできるじゃん。医術の知識だってすごいし、頭だって俺よりもずっといい。知識とか、世界最高クラスじゃん」


「でも、私はあなたの発想力に勝てないんですよ? 私はしょせん、すでに世界にあるものを知っているだけにしか過ぎないんです。先輩みたいに、ゼロから何かを創り出すことはできないんですよ、私?」


「ナターシャ……」

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