第58話 謁見

 全てが終わった後、俺たちはナースル王国の王宮に招待されていた。

 さすがに、火山噴火の影響で避難誘導や救助活動が行われ続けているなかで、大規模な祝賀会はできないので、王室主催の小さな食事会で、俺たちの労をねぎらってくれるそうだ。


 とはいっても、宰相が裏切り者だったりして、宮廷内もやや疑心暗鬼のようなものに包まれているらしく、王と信頼できる王族の少数名だけが参加できる極秘の食事会になるようだ。


「ギルド協会御一行様が、ご到着されました!!」

 えーっと、ナースル王国の国王陛下には、「三跪九叩頭さんききゅうこうとうの礼」をしなくちゃいけないんだよな。一応、謁見前にやり方を教えてもらったが、なんだか違和感あるんだよな。まァ、異文化コミュニケーションっていうやつだから、郷に入っては郷に従えだ。


 俺たちも、儀礼通りに地面に手をつけて頭を下げようとしたものの……


「この国を救ってくれた異国の英雄様に、そのようなことはさせてはならん」

 国王陛下はそう言って、三跪九叩頭を止めさせる。


 そして、人払いをさせる。国王と第一王子であり、国防大臣のフチャ宰相代理だけが残った。


「まずは、我が国の宰相が、邪龍教団と通じて、諸君らの情報を流していたことを詫びたい。本当に申し訳なかった」


「前宰相はどうして、そんなことをしたんですか?」

 副会長は、淡々と状況説明を求める。


「双頭龍の牢獄にすべての資料が残っていました。どうやら、教団と手を組んで、邪龍を復活させることで、クーデターを企画していたようです」

 現・最高責任者の王子が答えていく。


「なるほど! では、邪龍教団は宰相の私兵だったということですか」


「そのようですね」


「ロン火山で、教祖は大盗賊"ブオナパルテ"に暗殺されました。ブオナパルテは、教祖の娘の指示だと言っていましたが、それが誰か王国は見当がついているのですか?」


「残念ながら、教祖の後継者が誰であるか、わかっていません。事情を知っているはずの、教団幹部もほとんどが自決するか、逃亡していました。領内の教団関係施設は、すでに軍隊を派遣し押さえました。押収した資料と関係者の証言をいま、聴取しているので、すぐに判明するはずですが……」


「わかりました。状況がわかりましたら、ギルド協会にもご連絡ください」


「もちろんです」


 こうして、ふたりの政治的な話は終わる。聞いているだけで胃が痛くなる。ひりひり感が伝わってくる。


「さて、生々しい政治の話はこれくらいにしようじゃないか。みなさんもお疲れのようだしな。アレク官房長、今回の件で、キミは命を懸けて邪龍を倒してくれたと聞いている。キミは噂通り本当に英雄なんだな」


「恐縮です!」

 俺は突然、国王様から話しを振られて、ぎこちなく返答した。


「キミは救国の英雄だ。王子ともどもお礼を言いたい」


 そう言うと、王族2人は俺に向かって深々と頭を下げる。

 礼を重んじるナースル王族として、最もやってはいけない対応のはずだ。

 俺みたいな一冒険者に対して、深々と頭を下げて感謝を伝えてくれた。


「「本当にありがとうございました」」


 ※


「本来ならば、もっと豪華な食事を用意して、大々的にあなた方をもてなしをさせていただきたいのですが、今回は非常時と言うことで、お許しください」

 宰相代理の第一王子は申し訳なさそうに、そう言った。


 しかし、これは……


 豪華すぎないかな?


 前菜が4種。

 野菜の和え物、黒酢とクラゲの冷菜、漬物、そして、フワフワする謎の物体が入ったスープ!


「このスープに入っているのはなんですか?」

「ああ、そちらは、サメのヒレですね!」

「サメのヒレ!?」

「はい、我が国は、文化大国ですので!! 珍しい料理もたくさんあるんですよ!」


 たしかに、クラゲとか他の国で食べたことないもんな。以前、ニコライ達と冒険していた時に、こっちの大陸に来たことがあったけど、珍しい食材の料理がたくさんあった。


 料理に使う油も、こっちではゴマから取るものがポピュラーらしい。独特の香ばしさがあって、美味しい。


 主菜もたくさんでてくる。

 本来ならこの分量の2倍を出すのが、正式な作法らしい。文化大国半端ない……


 巨大な蒸し魚。

 アワビのステーキ。

 鳥の丸焼き。


 見るだけで豪華なメインディッシュたち。

 特に魚は新鮮なものらしく、アクや生臭さがでやすい調理方法のはずの蒸し料理なのに、そんなものは一切なくすごく美味しい。


 国王様や王妃様、第一王子様、第二王子様、第一王女様の5人だけが、王宮側から参加された。


 王妃様や第二王子様、第一王女様からも、丁寧に国難を救ったことを感謝された。


「第一王女も年頃なのに、実はまだ結婚相手が決まっていないんですよ! アレク様も独身でしたよね?」


 王妃様から、そんな冗談を言われた時は、冷や汗をかいた。

 だって、ナターシャとマリアさんの目線がすごく怖かったから……


「ごめんなさい! すでに、先約がいらっしゃったのね?」

 王妃様は、俺たちをからかうように冗談と言い張って、場を和ませてくれる。これがなかったら、即死だったかもしれない。


「それにしても、アレク様はすごいですね!」

 王女様は、俺に対してなにか憧れのようなものを抱いてくれているみたいだ。まだ、15歳くらいだろうか?


 最初の儀礼的な挨拶の時は、緊張で顔が凍り付いていたが、宴会がはじまると表情がとても柔らかくなっている。


「まだ、お若いのに、魔王軍幹部を4体倒して、史上最年少でS級冒険者ですもの! さらに、邪龍まで打ち滅ぼしてしまって…… 今度ゆっくり、冒険のお話を聞かせて欲しいくらいですわ!」


「まったく、王女はじゃじゃ馬なんだからな。申し訳ございません、アレク様! 王女はあなた様のファンのようで、新聞のスクラップとかしているくらいなんですよ? まァ、それにしてもその若さで実力一本でS級冒険者かつギルド協会ナンバー3の官房長まで登りつめただけあって、すさまじい実力ですね。光の翼は遠く離れたここまで、見ることができました!」

 第二王子もあきれ気味だが、結構気さくに話してくれた。


 俺が褒められて、鼻の下を長くしていると、嫉妬したナターシャに見えないように足を踏まれた。


 痛いよ、ナターシャさん……

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