第57話 エレン②

―湖の塔 (エレン)―


 あの憎たらしい男がまたうまくやったらしい。私は、なんとか手に入れることができた新聞を読んで、歯ぎしりする。


「ギルド協会首脳、東の大陸で伝説の邪龍を討伐に成功!」

「ミハイル副会長『この勝利の立役者は間違いなくアレク官房長』」

「絶大な力を誇るアレク氏の光の魔術!」


 ほとんどの記事で、あの男を称賛する記事ばかり。

 屈辱よ。本来なら私たちが得るはずだった称賛や名声が、すべてあの男に奪われたのだから。


 あの男は調子に乗って、ついにニコライだけの専用魔法だった"光の魔術"すら手に入れてしまった。


 あいつは、簒奪さんだつ者。私、いや、私たちからすべてを奪った。だから、


 私がここに逮捕される前に、いておいた種は、みごとに役に立った。

 は死に、教団のスポンサーとして絶大な力を誇ったも病死に見せかけて排除した。


 だから、の残った信徒は、私の思い通りに動かすことができるようになる。


 そう、私が邪龍教団の新しい指導者であり、アナトーリお父様の一人娘――


 


 外で護衛兵士と侵入者が戦っている音がする。ついに、お迎えがやってきたようだ。次々と兵士が倒れる音が聞こえてくる。さすがに、元S級冒険者に対抗できる戦力は残っていないはず。

 

 ミハイル副会長とあの男が西の大陸から離れれば、私の監視兵力は弱体化し奪還作戦の成功は確かなものになる。すべては、私と大盗賊"ブオナパルテ"の計画通り。


「エレン様、お待たせしました!」

「遅いじゃないの? ブオナパルテ?」


「大変申し訳ございません。アナトーリ様、セキ宰相の粛清に手間取りました」

「まぁ、いいわ。あなたはよくやってくれたもの!」


「新しい教祖様の誕生とご帰還を、信徒は首を長くして待っております」

「東大陸の信徒は、大粛清されるだろうからわ。西大陸と北大陸の信徒に命令し、私たちに隠れ家を提供するように連絡して!」

「御意」


「まずは、あの男に対抗するために、ニコライを奪還するわ。あの人も、薬が切れて、禁断症状が出ているころだから、早く助けてあげなくちゃね」

「御意」


 ニコライを助けたら、次はあなたよ、ア・レ・ク!


 あなたは、絶対に許さない。


 私をこんなところに閉じこめた、あなたとギルド協会を私は許さない。


 私は、アレクに向けての復讐案を頭の中で何度も反芻はんすうし、それを妄想しながら私は高笑いを浮かべる。


 次に会うのが楽しみだわ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る