第56話 ニコライ➃
―ギルド中央病院 特別病室―
「ギルド協会首脳、東の大陸で伝説の邪龍を討伐に成功!」
「ミハイル副会長『この勝利の立役者は間違いなくアレク官房長』」
「絶大な力を誇るアレク氏の光の魔術!」
俺は新聞に飾られる旧友の名前に、激しく嫉妬した。
なんで、俺じゃなくて、アレクの名前がこんなに大きく取り扱われているんだ! そして、どうして俺はこんななにもない場所に閉じこめられなくちゃいけないんだ!!
病室の外から医者や看護師たちの世間話が聞こえてくる。
「しっかし、アレクさんスゲェよな~」
「ああ、魔王軍幹部のヴァンパイアに続いて、伝説の邪龍まで退治しちゃったし!」
「間違いなく、世界最強の冒険者ですね!」
「ああ、でも可哀そうだよな。ニコライさんの顔を立てなきゃいけないから、ずっと世界ランク2位なんだろう?」
「そうそう。たぶん、一緒のパーティーの時代から、絶対にアレクさんの方が強かったですよね!」
「ニコライさんは、エゴイストだって結構、噂になってましたもんね」
「たぶん、アレク官房長が補佐して、チームプレイに徹していなかったら、あの人どこかで死んでたんじゃないかな?」
「ありえる。だって、自分の実力を勘違いして、アレクさんを追放した挙句に、逆恨みして決闘を挑んだらぼろ負けしちゃったんでしょ。あの勇者様!」
「ダッサィ~」
「もう、アレクさんが光の魔術使えるようになったみたいだし、完全にニコライさんって過去のひとだよな!」
「ああ、1年前まで文句なしの世界最強の冒険者ってイメージだったけど、完全に化けの皮がはがれちゃった感じだし」
「あの時だって、実はアレクさんが世界最強だった説まであるだろ!」
「ありえる。アレクさん、めちゃくちゃ謙虚だし、冒険者ギルドで会うといつも気さくに声かけてくれるんだよな~ 実は、昔から大ファンなんだよ!」
「チームのために頑張りながら、魔王軍16将の内、ゾーク・クラーケン・ヴァンパイアの3幹部撃破に貢献して、伝説の邪龍まで倒しちゃったんだから、実力は魔王軍最高幹部に匹敵するだろう!」
「もう、押しも押されもせぬ世界最強の冒険者だ!」
「おい、"元"最強の勇者様に聞こえるから、もう少し声のトーンを下げてやれよ。かわいそうだろ」
その声と共に廊下に大きな笑い声が起きた……
屈辱だ
かゆい、かゆい、かゆい
俺は、首筋のあざをかきむしる。新聞は、いつのまにか、ビリビリに引き裂かれていた。
自分がやったという記憶もあいまいになっていく。
どうして、みんな俺を褒めずに、アレクばかり褒めるんだよ?
つい最近まで、みんな俺のことをすごいって、カッコイイって言ってくれていたはずなのに。
あんな器用貧乏のどこがいいんだよ。
あいつが謙虚で気さく? ただ単に自信がないからだ。あいつは、常に俺よりも下だったから、そんなへりくだった態度しか取れないはずなのに……
俺が過去のひとだと!?
違う、アレクのせいで、おれはここに閉じこめられているんだ。あいつは、おれからすべてをうばって、せかいのえいゆうをきどってるだけなんだ。
ほんとうのえいゆうなら、ここにいるんだぞ!!!
どうして。
どうして、おれのことをみんなはみてくれないんだよ!?
「俺の方が、絶対にアレクよりも強いはずなのに――エレンは、いつもそう言ってくれていたのに――どうして、俺の強さをみんなは分かってくれないんだよォォォォオオオォォォォ」
俺の叫びは、病室に響いたが、誰も答えてくれなかった……
俺は、裸の英雄だったのだろうか?
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