第47話 50人
そのまま、俺たちはダンジョンの奥深くへと潜り込んだ。
邪龍教団の本拠地というだけあって、悪質な罠が数多く仕掛けられていた。毒矢、魔力地雷、落とし穴、魔物呼び寄せの鈴、宝箱偽装モンスターなどなど。
ナターシャがいなければ、簡単にパーティー全滅してしまうものが多く、厄介なトラップばかりだった。
魔物もやっかいなドラゴン系列が数多くいるため、遭遇する前に叩き潰して無力化させる。
下手に炎の息の射程範囲に入ってしまうと、なかなか近づけないため、探索し、見つけたドラゴンから先制攻撃で潰していった。
運悪く接近されたドラゴンは、副会長が瞬間的に排除し、ボリスと俺でとどめを刺した。
順調にダンジョン攻略は進む。
そして、双頭竜の牢獄地下5階までたどり着いた。
この5階は、1フロア型の階だ。
ということは、教団側の人間との接触は避けられない。いやむしろ、このフロアで待ち伏せされていると考えた方がいいだろう。
俺たちは、気を引き締めて、周囲を見渡すと、やはり50人近い人間と、教団側のテイマーが率いるドラゴン10体がいた。
なるほど、総力戦か!!
「やあ、ギルド協会の諸君!! よくいらっしゃいました!! 私は邪龍協会ナンバー2のニーナと申します。以後、お見知りおきを!」
若い女が、集団の中央で俺たちに挨拶をする。
「ギルド協会のナンバー2ミハイル副会長、ナンバー3アレク官房長、マリア情報局長、S級冒険者のボリス王子、現代の聖女ナターシャ様。そうそうたるビッグネームがお揃いですね? 国でも滅ぼしに行くのかしら?」
「……」
俺たちは無言でニーナをにらみつけた。
「怖いですわ! せっかく挨拶しているのに! しかし、ここにいる信徒たちは、教祖様の奇跡で能力も上がっていますことですわ! おそらく、全員B級冒険者以上の実力に匹敵します! その精鋭50人とドラゴン相手にあなたたちは生き残れますかね?」
嘲笑するような仕草で、ニーナは俺たちに攻撃を指示する。
「うおおおおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおお」
怒号がフロア一体に響き渡る。
「やっかいだな、さすがに数が多すぎるぜ、アレク?」
ボリス、やめろ。そんな期待した目で俺を見るな。
「やっちゃってください、官房長?」
副会長まで……
「アレク君、さすがに殺しちゃダメよ」
マリアさんがさらに無茶ぶりをしていく。
「センパイ、がんばってくださいね!!」
ナターシャは、俺の耳元で「信じていますよ」と付け加えた。
やるしかないな。
俺は前にでる。
「いくらS級冒険者でも、50人をひとりで相手できるわけがない!!」
「世界ランク2位の首をとれば、俺も教団幹部だ!」
「世界の英雄を討ち取れれば、俺の名前は歴史に残る!」
血気盛んな奴らはやはり首にあざがあった。
こいつらもみんなやられているんだな。
卑怯な奴らだ。
自分は安全な場所指示をしながら、他の人間を戦争のおもちゃにする。
そんなことが許されていいわけがない。
だから、彼らは救う。命は奪わない。
俺は両手に魔力をこめた。
俺は、左右の手に魔術をこめる。
いつものように催眠魔法で、全滅させるのはリスクが高い。
この中には、レベルが高い冒険者と戦える戦力が混じっているだろうし、ドラゴンの実力を考えると、催眠魔法は効果がない。
もし、複数の敵を逃してしまえば、魔力使用後の無防備な俺に攻撃が集中してしまう。だから、一撃でほとんどの敵を無力化させる必要がある。
そして、この大人数に危害を与えずに、倒さなくてはいけない。
だから、大掛かりな爆発魔法や火炎魔法、凍結魔法は除外される。
考えろ。なにか方法はあるはずだ。
今までの戦闘の経験。ナターシャとの会話。あの村で過ごした日々。少し楽しかった新婚みたいな生活。
走馬灯のように記憶が呼び覚まされる。この数カ月だけでも、たくさんの出来事があった。冒険しているだけでは、分からないことも色々と経験した。ドルゴンみたいな幼い子にも、農業を教わった。
ニコライと冒険して、狭い世界で"最強"だと信じていた俺はもういない。だって、俺はすでに広い世界を知ってしまったのだから……
思い出がフラッシュバックして、ひとつの結論が導き出された!
そうか、あの経験を使えば、
俺は水魔法と土魔法を選択した。
右手の水魔法をフロア内の地面に向かって打ちこむ。
「なんだ、こいつ! 水魔法で水まきなんかはじめてるぞ!」
「世界ランク2位も恐怖で発狂したか!!」
「少しぬかるむが、この程度で足止めなんてできるわけがねぇ」
「ドラゴンのエサにしてやれェ」
うるさいやつらだ。これはあくまで伏線だ。あまり、ばらまきすぎるとダンジョンの床が崩落するから力加減が難しい。
そして、あいつらの床下が湿ってきたら準備完了だ。
床下には水が大量に含まれた地面がある。
あとは、左手の土魔法で、地面を混ぜるように揺らす。
「なんだ?」
「地震か!」
「結構強いぞ!!」
水が大量に含んでいる地面が揺れると、砂の接触が弱くなる。その間に、水が浸透し地盤は緩くなる。
「なんだ、地面から水が噴き出て来たぞ」
「いや、沈んでいるんだ!! 俺たちの足元がどんどん地面に吸い込まれている……」
「泥水が、助けてくれェェェ」
もがけばもがくほど、足元の泥水に吸い込まれていく。ドラゴンたちも同様だ。
相手がひるんでいる間に、もう一度、両手に魔法をこめた。
まず、左手の凍結魔法を用いて、敵の足元を完全に封鎖する。これなら、地面の中の水だけを凍らせればいいので、人間側に死者はでない。
50人の人間の足止めが完全に成功した。
「なんだよ、これェ!」
「足がドロドロだとおもったら、いきなり凍り付いて動かねぇ」
「くそ、こうなったら、無理やりにでも……!!」
「無理をしない方がいい。下手をしたら、足は切断されるぞ」
俺はドスを聞かせた声で、注意を促す。
「くそッ」
男たちは恐怖で無言になってしまった。
「こんな小細工で勝ったつもりぃ?」
教団幹部のニーナだけが、青いスカイドラゴンと共に、泥沼を脱出していたようだ。
「あんたなんか、こうしてやるゥ!!!」
ニーナに指示されたドラゴンが俺をかみ砕こうと急接近してくる。
「やっぱり、おまえらはどんなにドーピングしても素人だな!」
「負け惜しみを!!」
「ヒントだ! 凍結魔法を使ったのは左手だ。じゃあ、俺の右手はどうしているんだろうな?」
「えっ?」
「正解は、爆発魔法を用意してお前たちを待っているんだよ。じゃあな!」
俺は、スカイドラゴンの口の中に、魔術を押し流した。
スカイドラゴンは、空中で四散した……
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