第46話 待ち伏せ
「教団の待ち伏せだ!」
ボリスが叫んだ。すでに、3度目の敵襲。やはり、敵の本拠地に近づいているせいもあるだろうが、抵抗が激しい。そして、俺たちの情報がすでに漏れていることの裏返しだ。
白装束を着こんだ男3人が俺たちの馬車に向かって火矢を投げかける。しかし、遅いし攻撃がワンパターンだ。すでに3度の同じ攻撃を食らっている俺たちにとっては奇襲にもならない。
俺は凍結魔法で、火矢を無力化させる。
「「「なっ」」」
男たちの悲鳴のような声が周囲にとどろいたが、その後の声は続くことはなかった。
馬車を瞬時に飛び出した副会長が、3名を瞬く間に失神させたのだった。
強すぎる。
たぶん、1対1ならボリスのほうが強いと思うが、複数人を制圧することなら副会長の方が得意なはずだ。
ニコライクラスの反射速度と、槍の利点を生かしたアウトレンジ攻撃。
敵を最もリスクが低い状況で倒すことができる戦闘スタイル!さすがは、世界ランク6位で、若くしてS級かつ元帥と2つの最高位をもつ実績ある冒険者だ。
安定感ある戦い方は、世界でもトップレベル!
鬼の副会長というあだ名は伊達じゃない!!
失神した男の体には、やはり、首元にあざがあった。
さっきから、俺たちを襲う刺客には共通してこのあざがある。
「先輩、もしかすると、これは……」
ナターシャは何かに気がついたようだ。
「なんだかわかるのか、ナターシャ?」
「きっと薬物の副作用ですね。精神的に高揚感をもたらす中毒性のある薬物の一種かと! その人の潜在能力を底上げできる代わりに、幻覚や不安をあおり、洗脳にかかりやすくする作用があります。この特徴的なあざは、医学書で読んだことがあります。しかし、その薬物はニューランド国際条約で禁止薬物に指定されていて、そう簡単には手に入れることができないはずなんです」
「麻薬か……」
ボリスは怒りに震えている。
「ひどい。その人の人間性を踏みにじって、駒に変えているんだ……」
マリア局長も3人の刺客に同情している。
「でも、これであの教団の背後には国家権力クラスの後ろ盾がいることがわかりました。そんな危険な薬物を横流しできるのは、よほどの実力者です。アレク官房長、みなさん心してください。下手をすれば戦争になります!」
副会長は厳しい口調だった。
「でも、副会長は、最初からそうなることも考えていましたよね?」
ボリスはそう指摘する。
「えっ?」
「だって、そうでしょう? いくら強い宗教教団でも、ヴァンパイア討伐チームを送り込めば十分な戦力です。アレク官房長を中心とするメンバーでも戦力的には十分だった。でも、無理をして、あなたまでついてきた。それは、もしかすると政治的な判断をしなければいけない状況が発生するかもしれないと、あなたは考えていたのではないですか? だからこそ、事実上のギルド協会の最高決定権者である、あなたが前線に出てこなくてはいけなくなった?」
「その通りです。ボリスさん! いつから気づいていたんですか?」
「このクエストの依頼主を聞いたときからです。本来なら、国王名義で依頼があるべきクエストです。もし、王名義がまずいなら、宰相や国防大臣クラスが依頼すべき内容なのに、その下の参謀本部から依頼されていた。これはきっと、政府首脳には知られたくはない何かがあるんだな、と」
「正解です。さすがは、殿下ですね」
「からかうのはやめてください。S級を3人なんて、国でも滅ぼすのかと言われる戦力ですよ。それも依頼主の王国からの歓迎会もない。これは、ギルドの独立捜査権を盾に使った強行捜査なんですよね」
「……」
「ルーシー王国とのつながりが深い俺をパーティーに加えたのも、政治的な理由ですね。うかつにナーシル王国が、俺たちに介入してこないように? 下手をしたら国際問題に発展しかねませんからね!」
「否定できません」
「本当に食えない人だ」
「皆さんには確証が持てるまで、黙っているつもりだったんですが……ボリスさんの言うとおりです。今回の表のクエストは皆さんに伝えたとおりです。でも、裏クエストがあるんですよ! それは、王国政府の中枢にいるはずの裏切り者をあぶり出すことです」
政治家としての副会長の顔が俺たちを見つめていた。
※
「ですが、皆さんに黙っているのは、やりすぎでした。大変、申し訳ございません」
副会長は、俺たちに謝罪する。
「まぁ、いいですよ。要は相手のアジトを落とせば、その裏切り者を検挙できるということですよね?」
ボリスはまとめる。
「そうですね。敵のアジトには、確定的な証拠が残されている可能性が高いですから」
「まあ、それ以上の隠し事はないようですし、当初の目的通りクエストをこなせばいいんですよね?」
「助かります」
「じゃあ、いきましょう。目的もはっきりしたし、これでスッキリした」
あの~、完全に政治的なセンスが高い人たちで話が進んでしまって、俺だけ取り残されている気がするんですけど!! まあ、いいか! ナターシャとマリアさんもうなづいているし! みんなが納得していれば、大丈夫だろう。
俺たちは、ダンジョンに進んだ。
※
「やっぱり、入り口には見張りがいますね」
白装束2人がダンジョンの入り口を警備している。
体は屈強な人間を見張りに選んだようだが、まあ、時間稼ぎにもならないな。
副会長とボリスが俺に目を合わせて、出ようとしているが、白兵戦専門のふたりを疲弊させすぎるのも、ダンジョン攻略に悪影響を与えるかもしれない。
ここは、俺が行こう。ジェスチャーで、みんなに伝えると、うなずいてくれた。
催眠魔法の準備をする。圧倒的な実力差や、相手が弱っている時に効きやすい魔法だ。
詠唱を終えて、俺は見張りのふたりを昏睡状態にする。
「さすがだな、アレク一瞬か!」
「世界ランク2位の実力を発揮ですね、先輩!」
「私やナターシャちゃんも同じ魔法を使えるけど、たぶんここまで綺麗にできるのは、アレク君だけね!」
「よし、突入ですね!」
俺たちは、ダンジョンに突入した。
※
ナターシャが
これである程度の罠と、魔物の位置がわかる。
「魔物の数はそこまで多くはありませんね。一応、A級クラスまでの罠は、これでほとんどわかると思います! あと、見張りの人間も10人くらいいる感じです。その足元に、毒矢の罠が仕掛けられているんで、みんな気をつけてください!」
これは、ナターシャの医療用の解析魔法を応用した魔法だ。
ここまで、広大な範囲に影響を及ぼせるのは、解析魔法の使い手であるナターシャぐらいしかできない。
「そんなに、何度も見張りと戦っていては、こっちがもたないから、やっちゃいますね? みんな、俺の後ろに立ってください!!」
「「ダブル・マジック!!」」
両手に催眠魔法を準備し、合体させる。
俺は、ナターシャが作った探索魔法の魔力の流れに沿って、敵意ある人間と魔物に、催眠魔法を流し込んだ!
「見張りの人間と魔物たちの動きが完全に止まりました! さすがですね、先輩!!」
「ナターシャの魔法を利用しちゃった!!
「もう、ツッコまないわよ、アレク君?」
マリアさんは、驚きながらあきれていた……
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