第43話 揺れる陰謀

「ヒイイイイィィィィィイイイイイイイ」

 男は尻もちをつきながら、必死に副会長の槍から逃げようとしている。


「念のために聞きたいんだが、どうして私たちを襲ったんだ?」


「あんたたちが、こんなに強いなんて、知らなかったんだァァッァァァァアア」


「誰かの差し金なんだな?」


「は、い、そうで、す。羽振りのいい男から、あんたたちみたいな、冒険者風の人間が、このあたりを通るだろうから、ちょっと、ちょっかいをかけて欲しいって、言われて――金に目がくらんで、やったんです。でも、こんなに強い人たちなんて、思わなかったんですよオオオオオォォォォォオオオ」


 男はついに、泣き出してしまった。基本的に治安がいい東の大陸で、いきなりチンピラに絡まれるなんておかしいと思ったんだ。


 誰かの差し金か。これはやっかいだな。


「わかった。じゃあ、おやすみ」

 副会長は無慈悲に、槍の柄の部分を男のみぞおちに強打させて、失神させた。

 やばい、副会長さん、マジでキレてる!!


「やっかいなことになりましたね、皆さん」

 副会長は、何事もなかったかのように、俺たちに語りかけてくる。この冷徹さみたいなものが、副会長の凄味だよな。


「ですね、副会長! 俺たちがこの場所に上陸するのは、王国上層部のメンバーしか知らないことですからね。となると、依頼主側から情報が洩れている可能性が高い」


「となると、王国上層部に邪龍復活を望む裏切りものがいると言うことですよね? 先輩?」


「その可能性が高いな」


 先が思いやられると、みんなが黙ってしまった。


「とりあえず、食事にしましょう。この街で準備を整えて、ダンジョンを攻略します。東の大陸の料理はエスニックなものが多くて美味しいですよ?」

 副会長は、冷静に次の計画を立てている。黒幕について考えても結論は出ないから、とりあえず、前に進むしかないということだろう。


 みんなの気分が盛り下がらないように、気配りしているのもよくわかる。さすがは、現代最強の名将だ。部下の士気管理もお手のものということらしい。


 副会長が出張でよく使っているレストランで俺たちは食事を済ませた。


 ハーブをたくさん使った料理や、唐辛子をふんだんに使った辛い料理、魚がふんだんに使われている料理を堪能した。


 ※


「このレストランなら、比較的に安全に作戦会議ができます」

 副会長は食事を終えるのを見計らって、今後の予定を全員と共有する。


「まず、この街で、薬草や松明など、ダンジョン攻略に必要なものを揃えます。馬車も、ギルド協会名でレンタルできました。問題は、ダンジョン攻略ですね。双頭龍の牢獄は、地下10階まであるダンジョンです。しかも、私たちが向かうことは、教団側にバレているために、たくさんの罠が仕組まれている可能性が高いです」

 

 かなり、難しいクエストになっている。罠はかなり厄介だ。


「また、双頭龍の牢獄には、ドラゴン系の魔物も数多く巣食っているという情報もあります。皆さん、心して参加してください」


 ドラゴン系の魔物は、攻守隙がなく、火炎攻撃で遠距離攻撃も可能な厄介な奴らだ。


「まあ、このメンバーで攻略できない場所はないと思いますが、ね」

 副会長は不敵に笑う。


―東大陸 トンワン港 旅人の宿―


 とりあえず、私たちはこの宿に一晩泊まってから、ダンジョンに向かうことになった。


 私は、マリア局長と同じ部屋に泊まる。男の人たちとは別室だ。


「いよいよね、ナターシャちゃん?」

「はい、でも、マリアさんや副会長さん、ボリスさんとご一緒できて、安心していますよ」


「嘘つきね。顔には、アレク君が一緒だから大丈夫って書いてあるのに!」


「あんまり、からかわないでくださいよ。それに、マリアさんも同じでしょ?」


「バレてるか」

「私だって、一応、女の子ですからね! それに、マリアさんが先輩に惹かれるのは、よく分かります。ヴァンパイア討伐作戦の時に、先輩はマリアさんのことを命懸けでかばっていましたもんね。あの異次元の才能も含めて、惹かれない女の子はいませんよ」


「身内びいきが、かなり入っているような気はするけど?」

「だって、私は先輩が無名の時代から好きですからね!」


「うらやましいな。その自信……」

「ずっとずっと、考えていましたからね。彼と一緒に夢を叶えることを! だから、マリアさんに負けるわけにはいかないんです」


「やっぱり、ふたりは特別だって感じが伝わってくるわ。早く付き合えばいいのに? まだ、キスもしていないんでしょ?」

「この前の作戦で、手を握ったくらいです……」

「いや、初恋じゃないんだから!」

「初恋ですよ!!」

「そうでした……」


 焦りがないと言えば、嘘になる。でも、私たちには約束がある。その約束があるからこそ、私は諦めずにここまで来ることができたんだ。


「ねぇ、ナターシャちゃんは、アレク君と学生時代に出会ったんだよね?」

「はい、そうですよ!」

「どんな感じだったの、彼?」

「あんまり中身は、変わっていませんよ! どんなときでも、他人のために自分を捨ててでも動いてくれる。でも、大事なところは、どこか抜けていて、とても危なかっしい。そんな、彼のことを、私は――」


「好きになったんだ?」

 大事なところをマリアさんに持っていかれてしまった。


 でも、事実だから否定できない。大好きな人を語るには、笑顔が一番ふさわしい。

 だから、私は一番の笑みでうなづいた。


「はい!!」


「ふたりの馴れ初めを聞きたいな~」

「しょうがないですね。秘密にしてくださいよ!」

「うん!!」


 私たちはガールズトークに花を咲かせた。


 ※


 私は、西の国の辺境の貴族の子として生まれた。

 だけど、幼年期の私は、決して幸せではなかった。


 3歳の時に、母が急死してしまって、5歳の時に新しい母親ができた。

 父は仕事が忙しくあまり家にいなかった。

 継母は、私にも良くしてくれていたけど、やっぱりどこかに溝ができていた。


 7歳の時に父と継母に世継ぎの弟ができると、私は無意識的にふたりからは距離を置いた。


 邪魔をしてはいけないと思ったのだ。本当の家族の邪魔をしちゃいけないと。


 私は家の書斎に籠った。そこには、父の蔵書がたくさんあり、時間を潰すことが一番楽だったから。そして、魔導書を読みこむことで、私は魔術にも目覚めた。


 12歳を過ぎたら、魔術ができる者は「魔法科学校」に入学しなくてはいけない。私にとっては好都合だった。


 入学試験は、正直簡単だった。父の書斎で読んだ本のこと以上のことを聞かれることはなかったから。


「天才現る」「将来の名誉宰相候補」「神童」。入学試験の結果が公表されると、周囲の人は私に対してみる目を変えた。


 両親もいつものように褒めてくれたし、「将来は魔法科学校を卒業して、官僚になろうと思う」と伝えるとみんなは応援してくれた。


 私も全寮制の学校に進学し、そのまま官僚に成れれば、家から独立することができる。

 つまらない人生をそのまま乗り切るだけ。


 そう思っていた。彼と出会うまでは……

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