第33話 田舎でスローライフ!

 全ての仕事を終えて、俺とナターシャはやっと村の家に帰ってきた。

 結局、家具を設置し終わったくらいで、招集されてしまったため、マイホームでゆっくりできていなかった。俺たちの留守中は、村の人たちが管理と掃除をしてくれていたので、埃にまみれることなく快適なくつろぎ空間が維持できていた。


「帰って来たなって、感じですね、先輩!」

「いろいろあったからな。ヴァンパイア戦に、祝賀会、副会長への報告会とか。さすがに、疲れたぜ!」

「まあ、しばらくは休暇だと思って、こっちでゆっくりしていてくれと言ってもらいましたからね。しばらくは、スローライフしてましょう!」


「スローライフか!冒険はじめてから、ゆっくりするのは初めてだから、結構楽しみだ」

「先輩は、休みなく成り上がっていましたからね」


「ナターシャは、明日はどうするんだ?」

「お土産を配りながら、往診して、あとはハーブの様子でも見てこようかなって思ってます!」

「じゃあ、俺もお土産の半分はもらって、配ってくるよ!」

「お願いします」


 予定を決めて、俺たちは疲れた体を癒すために風呂に入り、ベッドに潜り込んだ。

 お互いに、すぐに意識を失うほど疲れていた。



 ※


 次の日。

「おお、アレク様!お戻りになったんですね」

 俺は村長さんの家に遊びに来た。村医のベールさんと、お茶を飲んでいた。


「はい、ご心配をおかけしました」


「いや~、今回も大活躍だったみたいですね。村の者たちも、新聞を読みながら大興奮しておりましたよ」


「実際は大苦戦だったんですけどね!今回もなんとか生き残りましたよ」

「ご謙遜を!!」

 そう言いながら、俺たちは世間話をしていく。


「これはお土産です。ベールさんもよかったら食べてください!」

「ああ、ありがとうございます。これはルーシー王国の銘菓ですね!」


「はい、ハルヴァールというお菓子ですね。ヒマワリの種やナッツを潰して、ペースト状にした後にバターや蜂蜜で味を調えたものです。試食して美味しかったので、村の皆さんに買ってきたんですよ!」

「いや~かたじけない。みんな、甘いものが好きでしてね。喜ぶでしょうな!!」


「留守の間に、家の管理をしていただいたので、お礼です」

「気を使わないでください、みなさん、アレク様・ナターシャ様に少しでも恩返しをしたいのですから!」


 そう言いながら、村長さんはお土産を早速、お皿に移して、俺たちへのお茶菓子にしてくれた。


「実は、お土産はもうひとつあるんですよ!」

「なんと!!」


「ルーシー王国の国王様から直々に分けていただいたものなんですが……向こうの寒冷地でも栽培しやすく、土の中で育つので、寒さや鳥に食べられる心配もないらしく、飢饉ききん対策にもなる一品のようです」


「そんな夢のようなものがあるんですか!?」


「それも、水やりもほとんど不要で、痩せた土壌でも作りやすいらしいです」


「……!!」

 ふたりとも絶句していた。ここまで聞いたら、まさに魔法の作物だろうからな。


「注意しなくてはいけないことは、連作で植えてしまうと、不良になりやすいので、できれば植え付けの間隔をあけることと、そして、しっかりと皮をむくことだと言っていました!」


「早く教えてください、アレク様!!そのような魔法の食べ物のことを!!!」


「それがこれです!」

 俺は袋に入った20個の玉を取り出した。


「これが、ルーシー王国が総力をかけて、発見した新種の食べ物"ジャガイモカルトーシ"です!!」


 ※


「これが、ジャガイモというものですか!!」

「はい、これは南大陸原産の食品みたいですね。現地の先住民族が主食として栽培していたものを、ルーシー王国の調査団が見つけたらしいです。保存にも優れて、暗室に保管すれば日持ちするらしいので、よかったら栽培してみませんか?」

「それはすごいですね。主食としても、最高の条件です!」


「実は王国の晩餐会でも、このスープやバター添えが出されていて、とても美味しかったんです。それで王様に聞いたら分けて頂けたんですよ」

「おお、さすがはアレク様だ!!」


「使わせていただける畑で、少しずつ栽培して数を増やしていきますね!」


 ※


 そんなこんなで、俺はジャガイモを育てることになった。

 気候的には、本当はもう少し早い季節に植えたほうがいいらしいが、まあ大丈夫だろう。


 農業にも詳しいナターシャに相談したら、「まずは土づくりですね」と言われた。

 俺は、土を耕す。


 そんなに多くの種イモを分けてもらっていないので、そこまで広く土を耕す必要がないのはラッキーだった。小さいころに、家族と畑をいじったことを思い出す。

 懐かしいな。あの頃は幸せだった。


 ナターシャお手製の肥料も分けてもらっていた。

 雑草などを燃やした灰で作った草木灰。

 落ち葉を集めて、土に混ぜ込み発酵させて作る腐葉土。


 難民キャンプで、食糧問題について必死に悩んだナターシャが文献で探し出した肥料らしい。


 その効果がすさまじく、農業生産力は爆上がりしたそうだ。


 あいつは、本当に勉強家ですごいよな。学生時代も序盤は、ツンツンしていたが、中盤くらいからはとても柔らかくなって、赤点ギリギリの同級生の勉強を見てやるなど本当に面倒見がよくなっていた。

 そんなところは、後輩ながら尊敬している。



 いつもはふざけているけど、仕事上のナターシャは本当にすごい。俺が独占していていいのだろうかと不安になるくらいで……



「センパイ、お疲れ様です!アイスハーブティー持ってきましたよ!」

「ありがとう」


 噂をすればナターシャはやってきた。 


「やっぱり、早いですね!鍛えているだけあります」

「でも、なんか剣とは違う場所を使うのか体痛いぞ」

「ださいな~!」

「おい!?」


 こいつはいつもそうだ。意外とシレっと毒を吐く。


「そうそう、草木灰は、あまり多くは与えすぎないようにしてくださいね」

「えっ、どうして?」

「土のバランスを取るのが難しくなりますから!ただ、殺菌効果も強いので、種芋を植える前の切り口に少しだけつけてもいいかもしれません!!」

「難しいな」

「難しいんですよ、人が生きるのって!」


「まるで、神官様のようなセリフだ」

「なに言ってるんですか!私は神官です!!」

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