第34話 世界国防担当大臣会議

―イブラルタルギルド協会 地下1階総合情報処理センター―


 アレク官房長には休暇を取らせているのは、今日、極秘に開催される会議のためだ。

 もし、仮にここに彼が参加していたら、この会議は開催できなかっただろう。


 圧倒的な実力者の誕生は、人間界には疑心暗鬼を生む。


、回線の準備が整いました」

「ありがとう、マリア局長。繋いでくれ!」

「はい!」

 

 少し間が空いて、モニターには各国の国防担当大臣の顔が映し出された。まったく、厄介なスポンサー様たちだ。なにかあったら、すぐに報告しろだとかいいやがる。


 内心では、毒づきながらも、私はにこやかに話を始めた。


 今日の参加者は、列強国の大臣の皆様だ。


 北方の陸軍国家ルーシー王国。

 東の文化大国ナースル王国。

 南の海軍国家コロール王国。

 西の経済大国マッシリア王国。


 これらの国はライバル関係である。魔王軍と言う共通の敵がいるからこそ、うまくまとまっているが、仮に魔王軍がいなくなった場合はどうなるかはわからない。


 ギルドの運営資金も、大部分がこの4カ国から拠出されており、世界最高クラスの軍事力を保有するギルド本部と言えども、彼らの意向は無視できない。


「まずは、副会長。ルーシー王国における、ヴァンパイアの討伐ご苦労だったな」

「左様。仮に、眷属のパンデミックが始まってしまったら、もう取り返しがつかないところであった」

「当事者国としても、深く感謝を表明する」

「しかし、我々に事前の報告があってもよかったのではないかな?」

 。つまらないマウントの取り合いだ。


「申し訳ございません。事態は急を要しておりましたので、ギルド本部に付与されている緊急事態における特別の非常事態行動権を行使させていただきました」


 とりあえず、言い訳だ。もう終わってしまったことを、とやかく言われても、覆水盆ふくすいぼんに返らず。


「我々に、法律の講義でも行うつもりか?」

 ほーら、はじまった。


「滅相もございません」

 無能なヤツほどよく吠える。面従腹背めんじゅうふくはいとは、まさにこういうことだな。


「まあ、いい」

「しかし、アレク官房長という巨大な戦力が、西の大陸に永住するのは、我々も疑心暗鬼にならざるを得ないだろう。彼は扱いようによっては大変危険な諸刃の剣だ」

「4大国の軍事的なパワーバランスの面から言っても、安全保障上の脅威になりかねないからな」


 なるほど、仮に西のマッシリア王国に、アレク官房長が籠絡ろうらくされてしまうことを危惧しているわけか。

 彼ひとりの軍事的な影響力は、下手な中小国家よりも大きいからな。

 

 マッシリアがアレク官房長を配下においてしまえば、他の国は外交的にも劣勢に立たされる。


 馬鹿な政治屋たちが考えそうなことだ。なんと、時間の無駄なことを――


「ご安心ください。アレク官房長は公平な男です。どこかの勢力に取り込まれることは、ありえません。さらに、ギルド本部は、"政治的な中立性"を第一としております。ご心配は杞憂きゆうかと?」


 私は、こういえば政治家たちが何も言えないと分かっていて発言する。

 ほとんど、ピエロだ。


「「「「……」」」」


 よし、うるさいスポンサーを黙らせた。建前で押してしまえば、そこで生きている人間は、それ以上は何も言うことができないはずだ。なぜなら、自分の土台を崩すことに繋がりかねないからな。


「それなら、安心したよ。わが国が同様の脅威に見舞われた時はよろしく頼む」

「もちろんです。それが、


 さあ、早く会議を終わらせよう。そう思った矢先、スポンサーは、私に1つの情報を突きつけた。


「最後にもう1つだけ確認だ。ギルド協会が、今回討伐したヴァンパイアの細胞を秘密裏に採取し、持ち去ったという噂があるのだが、それは事実かね?」


「なっ……」

 そんな情報は今、初めて知った。どうやって、政治屋たちはその情報を得たんだ!?

 

 そんなことをするような、人物は、俺はひとりしか心当たりがない。


……一体、あなたは何を狙っているんですか?)


「そのような、事実は確認しておりません。噂は、しょせん、噂ですよ」

 こうして、たぬききつねのばかし合いは、終わりを告げた。

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