第19話 才能

「これでやっと人並みの生活ができるな」

「はい!」

 俺たちは雑貨や日用品を大量に買い込んで、馬車に詰め込んだ。


 さすがに、馬に悪いので、重い家具には軽量化魔法をかけて馬車に搭載した。1時間は効果あるので、すぐに帰れば問題ないはず。


「でも、先輩、いいんですかぁ~?」

「うん、なにが?」

「ぶっちゃけ言うと、家具屋の店員さんとか、絶対私たちのこと勘違いしてましたよ」

「あっ……」

「就任早々と、色恋沙汰のスキャンダル振り撒いちゃいましたね。あとで、絶対にゴシップネタになりますよ。アレク官房長、秘書と熱愛。ショッピングデートの顛末みたいな」


 ナターシャはニヤニヤしながら俺を見つめる。


「随分と、他人事だな。お前だって、聖職者なのに、そんなスキャンダル撒き散らされていいのかよ」

「いいですよ。熱愛ってのですからね。それに、好きな人と新婚気分を味わえるデートが、形に残るって意外とアリかなって」


「なんという強メンタル」

「先輩には、わからないでしょうね。乙女心って結構複雑なんですよ」

「鈍感冒険者だからな、俺」

「そこも好きです」

「はぁ?」

 なにいきなりぶっこんできたんだ、ナターシャ?


「6年ぶりに、先輩と生活をともにしていると、どうしようもないところでそう思っちゃうんです。私の作ったスープを美味しいって食べてくれるところ。ちょっとした私のワガママを聞いてくれるところ。さっきみたいに、会見前に、駄々をこねるところ」


「そんな普通のところがいいのか?」


「そうですよ。普通のところを見ることができるのがいいんです。同じ冒険者になって、よく分かりました。たしかに、机の勉強では私の方が先輩よりも成績は良かったです。でも、そんな狭い世界じゃなくて――先輩は、本当に天才で、怪物で、どんなに頑張っても、私は全然追いつけなかった――冒険をしていても、私はずっと劣等感を感じてましたよ。今だって少しは感じてます」


「おまえだって、20歳でA級冒険者、かつ職業内序列5位だ。十分、異例の速さの出世スピードじゃないか! 俺じゃできないことをたくさん実現してるし、ナターシャのことを書いてある新聞を読んで、俺はいつもみんなに自慢していたんだぞ。こいつ、俺の後輩だ、すごいだろって」


「それは、すごく嬉しいんですけどね。でも、先輩は自己評価が低すぎます。たぶん、周囲のレベルが高すぎたせいですけどね」


「そうか? 正直、どうしてみんながここまで俺を評価してくれるのかわからないんだよな。過剰評価な気がしてならない」


 いつの間にか、俺の左肩は、ナターシャの頭に占領されていた。


「低すぎますよ。あの勇者のことを褒めるのは、正直嫌ですが、彼の才能はダントツすぎました。ニコライがもっと素直に育ったら、誰も寄せ付けない強さになっていたはずですよ」


「それは、俺も同じ意見だ。あいつのポテンシャルってやばいんだよ。どうして、一瞬でなにもかも覚えちゃうんだよ! みたいな」

「だから、先輩は自分の才能を過小評価しちゃうんですよ」


「そうかな?」


「そうですよ。少なくとも、あのニコライと肩を並べて成りあがったじゃないですか? あんな才能がずっと近くにいたら、普通の人なら絶対に潰れちゃいます。たぶん、あの女賢者も、潰れたクチですよ。圧倒的な才能は、凡人の人生を狂わせますからね」


「わからなくはないかも――?」

「だからこそ、先輩の凄さがわかるんです。あの異次元の天才と、5年も同じ空間にいて、いっさい自分を見失っていない。むしろ、あの勇者のもつポテンシャルすら吸収してしまっている。17歳でB級、18歳でA級、19歳でS級、21歳で協会ナンバー3。どれも歴代最年少記録です」


「でも、それはニコライがいたからで。どちらかといえば、俺はオマケみたいなもんで」

「みんながそう思っていたから、先輩は正当に評価されなかった。いや、みんなが嫉妬していたからこそ、正当に評価しなかった!」


「どういうこと?」

「私が言いたいのは、先輩の才能は、勇者ニコライすらも上回る可能性があるってことです。ニコライすら、たぶん先輩の才能に、バランスを崩してしまったんですよ。格下だと思っていた相棒が、自分よりも才能があるなんて、焦るでしょ?」


「ナターシャくらいだよ。そう言ってくれるのは、さ」

「私の考えが正しいのは、これからみんなが分かると思います。先輩の才能は、歴代の冒険者でも5本の指には入るって……頑張りましょうね、これからが大変ですよ!」


「ああ、ナターシャが隣にいてくれるから、安心だよ」

 俺がそう言うと、ナターシャは俺の指を軽くつねった……

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