第18話 史上最年少
「それでは、記者会見の場を用意しているので、こちらへ、新官房長」
「はなせえええええええ」
「ナターシャ秘書官、無理やりでもいいので連れてきてください」
「はーい」
「いやだあああああ、いきなり記者会見なんていやだあああああ。というかいつの間に、ナターシャが秘書官になっているんだよおおおお~」
「大丈夫ですよ、何かあったら私が隣でささやいてあげますから~!」
「頭が真っ白になるからいやだあああ。俺はあがり症なんだよおおおお」
こんな感じで駄々をこねていたが、結局会見の場に引きずり出されてしまった。
※
「え~、それでは記者の皆様、この度、空席になっていましたギルド協会の「会長室官房長」に新しく就任された者の紹介をさせていただきます」
「「「おおお~」」」
ついに、副会長が司会で、会見が始まってしまった。
「おそらく、皆様もご存知だと思いますが、こちらが新官房長のアレクさんです。アレクさんは、"史上最年少"で協会のナンバー3である官房長に就任されることとなりました」
「これはみんな驚くぞ」
「元勇者パーティーのナンバー2が協会運営入りか。すごいな!」
「もしかして、アレクさんが独立したのは、この就任のためか?」
「そうすると納得だな!さすがに、勇者パーティーと協会運営は両立できないしな!」
「じゃあ、アレクさんとニコライさんの対立説は、ガセだったのか!」
「史上最年少っていう称号は、マスコミ的にも嬉しい」
記者たちは勝手に納得を始める。さすがは世界トップクラスの頭脳ふたりが考えたストーリーだ。効果は抜群だ。
「アレクさんは、勇者ニコライ氏とふたりでパーティーを発足させて、D級から、S級冒険者まで上り詰めました逸材です。常に勇者の片腕として積み上げた実績は申し分ありません。つい先日発表された世界ランキングでも2位にまで上昇していますし、能力面でもまさに最高の人材です」
「まさに、勇者の右腕か!」
「事実上の総合力ナンバー1だからな、アレクさんは~」
「俺も戦場記者として、バル攻防戦を見たけど、戦争終盤の無双ぶりは本当にやばかったぞ!!」
「ああ、俺もクラーケン討滅作戦の時に、参加した兵士さんたちにインタビューしたけど、アレクさんが真の英雄だって声が多かったよ。あの人、負傷者の撤退のために、ひとりで魔王軍幹部を足止めしたんだもんな。すげえ、実力と勇気だよ」
「ニコライさんのパーティーがあそこまで強くなったのも、アレクさんが色々と献身的に行動していたからなんだよな。実力もすごいあるのに、いつも汗かき役に徹していて、ニコライさんに全部華をもたせていたんだよな。だから、今まで表立っての評価は低かったんだろうな。でも、パーティーから離れた瞬間に世界2位だもんな~ すごいな~!」
「実際、冒険者仲間に聞いても、悪い評判はほとんど聞いたことないんだよな~! 自分のことより、チームプレイに徹しているって意見多かったし。名前を挙げたい冒険者ばかりだから、めずらしいよな」
やばい、嬉し恥ずかしい。
「アレク新官房長には、基本的に危機管理部門と総務を担当していただく予定です」
「ということは、事実上の実働部隊の長だな」
「世界ランク2位のアレクさんが、実働部隊率いるとか最高だな」
「これはすごく明るいニュースだ」
「海上の治安は副会長が、陸上の治安はアレクさんが見る体制の確立か。これ以上の人材はいないな」
「会長、副会長、官房長のトロイカ体制とか、どんなドリームチームだよ!! 歴代最強の人材が集まっちゃったわ」
記者のみんな、そんなにハードル上げないでっ!?
「また、先日の爆発事故の件で、勇者ニコライさんが長期入院を余儀なくされるため、しばらくはアレク官房長がギルド協会の最高戦力代理となる予定です。ニコライさんに代わる人材としては、彼が最適の人材だと疑う人はいないでしょうから、市民の方々もご安心ください」
「「「おおお~」」」
「それでは、アレク新官房長の一言を頂きたいと思います。よろしくお願いします」
きたあああああ、やっぱり、こういう無茶ぶりするうううう。
「えー、アレクです。よろしくお願いします―― 俺は元気です、ありがとうございました」
会場は一瞬で凍り付いた。
頭が真っ白になった俺は黒歴史を量産した。
※
「いや~酷い会見でしたね! なんですか、「俺は元気です」って」
「お願い、傷口に塩を塗らないで――俺のメンタルはもうボロボロです」
「先輩は、学生時代からスピーチ苦手でしたもんね。終わった後、爆笑を取れたから、まぁいいんじゃないですか~!」
「なんも言えねぇ――」
そんなこんなで、会見を終えて、俺たちはナターシャおススメの海鮮レストランでランチ中だ。
貝のスープ、シーフードサラダ、ペスカトーレ、プリンのランチゆったりコースを堪能しながら、俺はナターシャのいじりを受けていた。本当にどうしてこうなった……
「でも、私たちの夢にまた、一歩近づいちゃいましたね、官房長?」
「プライベートの時は、役職名で呼ばないで」
「いつの間にか協会ナンバー3ですよ。夢みたいです」
「俺は、あまりの変化に動悸がする。でもさ――」
俺は、少しワインを飲んで気分が高揚していたのかもしれない。
「ナターシャと再会してから、素敵なイベントばかりだよ。本当にありがとう」
「お礼を言うのは、私の方です。先輩に助けてもらった8年前から、私はあなたから本当に大事なものを与えられています。これからもよろしくお願いします」
俺たちは、ふたりで恥じらい合った。とても幸せな時間だった。
※
ランチの後、俺たちは海岸を散策した。ワインを飲んでしまったので、砂浜を歩くくらいにしてふたりで語り合う。
「太陽が反射して、キラキラですね。すごく綺麗です!」
「ああ」
「ひとりの時は、海にこんなに感動することはなかったと思います。やっぱり先輩とだからですね~」
「照れるぞ」
「私だって、照れてますよ!」
思わず約束を忘れて、手をつなぎたくなる。そう思うと、ナターシャの存在は近くて遠い。
彼女に近づかなくてはいけない。俺はずっとそう思っていた。5年間必死に努力して、俺はいつの間にかここまで来ていた。
上に行けば行くほど、道は険しくなる。でも、ナターシャとの夢があるから、先に進める。どんなに険しくても、希望があるから先に進めることができる。
この瞬間が永遠に続けばいいと本気で思っている自分がいた。
「号外、号外!」
そう言って男たちが新聞の配布をはじめて、俺たちは現実に引き戻された。
どうやら、俺の官房長就任の号外が完成したようだ。新聞各社の号外をナターシャと回収する。
―――
<号外>ギルド協会ナンバー3に世界ランク2位のアレク氏が就任~
<号外>アレク氏、史上最年少で官房長に~協会最高戦力と兼務~
<号外>ギルド協会に新風~新時代の幕開けを象徴する21歳の官房長~
―――
「文字で見ると、なんかすごいな」
「はい、さっきまではもしかして夢なんじゃないかとも思っていたんですが、一気に現実に引き戻されました」
俺たちは、「イブラルタル通信」の号外の本文に目を通す。
―――
テルミドール579年8月2日 イブラルタル通信<号外>
<号外>ギルド協会ナンバー3の官房長に、21歳のアレク氏
全国ギルド協会は、2日、長らく空席であった協会ナンバー3の「会長室官房長」に、S級冒険者のアレク氏(21)を充てるという幹部人事を発表した。同日付で発令する。
アレク氏は、今まで協会の運営には携わってはおらず、史上最年少で「官房長」に抜擢される異例の人事。勇者ニコライ氏(21)の長期入院で事実上不在となっている最高戦力の代理も同時に兼務し、協会内では主に「危機管理」を担当する。
アレク氏は16歳で冒険者登録し、盟友のニコライ氏と同じ19歳で史上最年少のS級冒険者に同時昇格した。魔法戦士の職業内序列は1位で、総合世界ランクは2位。
アレク氏は今回の人事就任のため、ニコライ氏のパーティーからは独立していたことを明かした。
全国ギルド協会ミハイル副会長は就任記者会見に同席し、「今後の協会運営は、会長・副会長・官房長の三頭体制、いわゆる、トロイカ体制でやっていく。アレク新官房長には主に、魔王軍との戦いで実働部隊を率いてもらうことになるだろう」と語り、「彼はまだ、若いがすでに実績と実力は折り紙つきなので、大変期待している」と発表した。
アレク氏は、会見で緊張しながらも、軽快な冗談で場を沸かし、最後に「私のような若輩者が重責を担えるか不安ではあるが、誠心誠意対応していきたい」と語った。
勇者ニコライ氏が不在の中で、協会にはそれに対応するために、新体制の構築が急がれる。
―――
「ずいぶんと、期待されていますね、センパイ?」
「急に胃が痛くなってきたよ」
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