第6話 ニコライ

「なあ、ニコライ! ギルドの張り紙を見たか?」

 俺が宿で休んでいると、ボリスが部屋に飛び込んできた。


「どうしたんだよ、ボリス。そんなにあわてて」

「冒険者世界ランキングが更新されたんだよ」

「へ~」

「いや、反応薄いな」

 当たり前のことを聞いてきて嫌になる。どうして、最終的には俺が勝つゲームの結果を知りたいと思ってるんだよ、この脳筋。


「どうせ、俺が1位だろう? 光の魔術は俺しか使えない特別な術式で、魔物を滅ぼす破邪の効果があるから、2000ポイントも特別加算される。誰にも抜かれねぇよ」

「そうなんだけどさ、そうなんだけどさ」

「どうしたんだよ、はやく話せよ。とんでもないルーキーでも現れたのかよ?」

「いや、ルーキーというかベテランにすごい奴が」

「ああん? 誰だよ、俺が知っている奴か?」

「知ってるも何も、なんだ」

 こいつ、ついに頭がおかしくなったんだな。アレクの次はこいつかな。


「はぁ? あの器用貧乏が、どうしたんだよ」

「あいつ5年ぶりに、診断を受けたら、一気に世界ランク2位になっちゃったんだよ。それも、光の魔術抜きの総合力なら、お前よりもはるかに高い点数を叩き出しちまったんだ」

「んだとぉ」

 まぐれで、アレクが俺よりも高い点を取っただと。ふざけるなっ。


「おかげで、俺たちの評判が下がっている。嫉妬に駆られて勇者ニコライが親友を裏切ったとか―― 実は、ニコライじゃなくてアレクのほうがすごかったんじゃないのかとか―― 女におぼれた勇者を見限って、アレクが独立したとか―― ギルドに貼ってある俺たちの肖像画にも落書きされててさ」

「――なんて書いてあったんだよ」

「それが……」

「早く言えよっ」

「わかったよ。そんなにキレないでくれ。お前の頭や目に矢印が書いてあって「バカ」とか「節穴」とか、「女狂い」とか」

「くそやろうがあああああああああああああああああああああああああああああああ」

 思わず本性が出てしまった。


「ひぃ」

 ボリスが女のような声をあげる。気持ち悪い。


「おい、俺はなんだ、言ってみろ」

「世界の危機を何度も救った現代最強の勇者で英雄のニコライです」

「様をつけろ、この馬鹿野郎」

「すまん、ニコライ、いや、ニコライ様」

「分かればいいんだ」

「目が完全に逝っちゃってるよ」

「ああん?」

 小声の悪口を聞き逃すわけがない。


「なら、アレクを追うしかないんじゃない。こんな屈辱、はじめてよ。きっと、あいつは私たちに追放されちゃった腹いせにインチキしたに決まっているわ。許せない、私のニコライをおとしめるなんて」

 愛しのエレンは、俺のことを考えてくれる。やっぱり、俺にはこいつしかいない。


「だが、冒険者同士の私闘は厳罰だぞ」

「バカ言わないで。やつらは行方不明になるだけよ。不幸な事故として処理されるだけ。だいたい、ニコライは世界で唯一、光の魔術が使える人間よ。ギルドも彼を失うわけにはいかないはず。私たちならうまくやれるわ」

「だけど、アレクは、この前まで仲間だった……」

「消えてえんだな、おまえ?」

 エレンの言葉を受け入れないことにイラついた俺は、剣に闘気をこめてボリスに突き付ける。

「すまん、俺が悪かった」

 冷や汗をかいたボリスは素直に受け入れた。


「いいか、あいつは確かに世界ランク2位かもしれない。だが、俺たちはあいつと同じくらいのランカーが4人も集まってる。実戦経験も豊富だ。負けるわけがない。実際、俺たちのパーティーランキングは何位だぁ? ああん」

「1位です」

「そうだろう。チーム力なら圧倒的に1位だ。あいつが誰かとつるんでるかもしれないが、俺たちに勝てるわけがねぇ。ぶっ潰すぞ、おまえら」

 俺たちは、アレクの後を追いかける。

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