第2話 後輩

「やっと、会えた~! アレク先輩、お久しぶりです。うわ~、何年振りだろう? 嬉しいです!!あいかわらず、体鍛えてますね。さすがです! 私のこと、おぼえていますか?」

 そう言って、女の子は俺に抱きついてくる。金髪の美しい髪、白い法衣、小柄な体。そして、この話し方…… 俺の知り合いで、この特徴と一致する人間はひとりしかいなかった。


「まさか、ナターシャか!? 魔法科学校で、1年後輩の……」

「正解です。お久しぶりです、先輩! 近くにいるって聞いたので、会いに来ちゃいました。3年ぶりですね!」

「ああ、元気にしていたか? まだ、冒険者は続けているんだよな?」


「とっても元気ですよ。はい、今も、先輩と同じ冒険者です。職業ジョブは相変わらずの、神官プリーストですけどね。だから、先輩の噂は、いたるところで聞いてますよ。西の王国を救った人類の英雄のひとり。S級冒険者のアレクせ・ん・ぱ・い?」


 そう言って、彼女は俺の体に抱きつく。近い。学生時代から、いつもこんな感じだったから、俺たちにとっては普通のことだけど――ここは、衆人環視のど真ん中だ。


「おい、アレクさんが、小っちゃい神官と抱き合ってるぞ!」

「ストレスが溜まりすぎて、ついに女に走ったか」

「でも、相手が神官って、結構スキャンダル!」


 や・ば・い。ただですら、俺の株は勇者パーティー追放の一件で暴落している。

 ここで、こんなイチャイチャシーンを見られたら、完全に終わりだ。


「そうだ、ナターシャ。夕食は食べたか? せっかく会えたんだ。一緒に夕食で、学生時代の思い出話とかどうだ? 二人でしっぽり語り明かそうぜ!!」

 俺は逃げた。


「えっ、いいんですか? やったー、先輩と夕食デートだ! 嬉しいー!」

「デートじゃないし……そこに、美味しいレストランがあるんだ。そこなら、個室もあるから、ふたりで話し合おう」


「個室、意味深!?」

「いやいや、俺の評判にかかわるからだよ~」

「先輩、何言ってるんですか~ 意味わかんなーい!」

 そう言ってウキウキのナターシャと一緒にレストランに向かった。

 気落ちしていたのがウソみたいに、俺は学生時代から変わらない旧友との再会を喜んでいた。


 ※


「うわ~、すご~い。さすがは、先輩のおススメレストランですね。それもコース料理とか、私はじめてです!」

「まあ、俺も一応S級だからな。お前神官だよな。肉とか食べていいんだっけ?」


「私は神官兼冒険者ですからね。修行の時期は肉を避けた方がいいんですが、いまは大丈夫です。それに今回は先輩のおごりなんで、お供えとしてありがたくもらっておきますね」

「そっか。なら、メインも肉料理でお願いしちゃうからな」

「お願いしま~す」


 野菜のスープとサラダが運ばれてきた。

 赤ワインも注文する。赤ワインは、儀礼的な意味も込められているので、神官でも飲めるはずだ。


「そういえば、ナターシャと酒を飲むのはこれがはじめてだな!」

「そうですね。私たちが最後にあった時は、ふたりとも未成年でしたからね!」

「そう考えると、なんか感慨深いな!」


「爺くさいですよ~! せんぱ~い! あっ、お酒飲ませて、お持ち帰り狙ってます? 先輩なら、私、喜んで受け入れますからね」


「しねーよ、ばーか」

「そういう、紳士的なところも好きです、センパイ!」


 こいつは変わらないな。学生時代に、たまたま魔物に襲われているところを、助けてあげたらこの通りだ。そこに救われている自分がいるのが、またおもしろい。


 ふたりで赤ワインを1本開けたところで、本題が始まった。


「そういえば、先輩? ニコライさんたちとは一緒じゃなくていいんですか?」

 こいつには、嘘をつきたくはない。だから、すべてを話す。


 ※


「えー、パーティーを追い出された!?」

「恥ずかしながら」

「そんな、S級冒険者の先輩を――どうして?」


「俺は、器用貧乏で、パーティーの穴だからいらないんだって。新しく壁役になるピエールさんという人が後釜になるらしい」


「そんな……」

「あと、どうやら、賢者のエレンと俺がうまくいかなかったみたいで。ニコライは、エレンを優先したとかなんとか……」


「痴情のもつれですか…… なにその淫〇ビッ〇、ありえない」

「おいっ、神官が禁止用語言うなよ!」


「だって、そうでしょう。先輩がニコライさんの相棒面していたのがムカついたから、排除したに決まってますよ。自分が一番愛されないと許されないというか――勇者パーティーの姫って言うんですよ、そういう奴。いくら実力があっても、パーティークラッシャーなんて、ありえない」


「………」


「だいたい、ニコライさんもニコライさんですよ。先輩が一番献身的にパーティーを支えてきてくれたのに、それに感謝するどころか罵声を浴びせて追放するなんて、筋が通りませんよ。そんな人だとは思わなかった。恋愛が絡むとひとってそんなに変わっちゃうんですかねっ!? こうなったら、私が闇討ちに行ってやる」

「やめろ、それはさすがにお前の命にかかわるだろう」


「なに言ってるんですか。先輩が馬鹿にされて、黙っているほど私は人ができていないんです。こう見えても、私もA級冒険者ですからね。かすり傷くらいはつけてやります」

「えっ、A級?」


「そうですよ、私だって先輩に追いつきたくて頑張ったんです。まだ、A級下位ですけど、ね」

「そっかぁ、相変わらずすごいな、ナターシャって」


「愛の力は、偉大なんですよ~ って、先輩、泣いてるんですか? 大丈夫ですか?」

「えっ……」

 ナターシャに指摘されて、自分の視界が曇っていることに気がついた。

 とめどなく涙があふれてきた。


 悔しさとかそういうのじゃなくて……


「ごめんなさい、私、先輩の気持ちを考えずに――」

「違うんだ、ただ――」


「ただ?」

「俺のために、ナターシャが怒ってくれるのが、嬉しくて、さ!」


「先輩は責任感強すぎますよ。今日は特別ですよ。私がお姉さんになってあげます!! 今日は、たくさん飲んじゃいましょうね!」

「ああ、ありがとう」

「どう、いたしまして」

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