第19話
今後、目的達成までの間を過ごす建物の中でゼンはリコルの隣に座りながら話を聞いた。
作戦の話、龍蘇会の内部情報、そしてもしもの話。
ゼンはその日、胸を圧迫するかのような苦しさに苛まれた。安眠できないほどの負担が彼女を襲う、けれども甘えることは到底できない。
死と死が隣り合っている世界で生きることを決めたのは自分なのだと彼女は言い聞かせ、計画が無事に終わることを祈るだけだった。
「今までのチンピラとは違う、強い、俺も……負けるのかなって思ってしまうほど」
戻って来ない彼の顔を思い浮かべながら、見知らぬ故郷を想像しながら、独り言を呟いた。
「……でも、俺は勝つ。あいつらのために戦う、幸せのために」
そうして、彼女は「おやすみなさい」と空に向けて言葉を溢した。
――その晩、彼女は数日ぶりに悪夢を見た。それは実に鮮明に、まるで今、目の前で起こっているかのようにも見えた。
自分とよく似た姿、これは母親とも呼ぶらしい。それが目の前で首を吊っている夢を。
ゼンは声が出せなかった。全てを理解したように、虚な目を向けるだけだった。
ゼンは、そのまま死体に口づけをして目を覚ました。朝になっても、夢のことをリコルに伝えることも無く、淡々と自分の元に向かってくる邪魔な奴らを片付けては、目的達成のために体を動かした。
そうして数日後……彼女は、ある一人の少女と遭遇した。
片目が隠れ、渦巻き模様が浮かんでいる虚空な瞳をこちらに向けた、幼い少女と出会ったのだ。
「迷子? 」
ゼンは少しずつ、少女の元に歩み寄る。彼女は何も言わず、ゼンの服の裾を掴むだけだった。このような場合、スリの可能性もある、敵の可能性もある、手を振り解いたほうがいい、彼女はリコルにいつも教えられていた。
しかし、少女の手は異常なまでに冷たく、酷く震えていた。少女はその手を振り解くなど到底できはしなかった。
「あー……親、は……? 」
ドメニカもファビアンも、こんなに大人しくなかったと、ゼンは少女に視線を合わせた。
刹那、ゼンは視線を合わせた瞳から煙臭い何かを感じた。少女の薄ら笑いが掠れた先で見え、嗚呼と理解した。その少女は、迷子でもない、ただの敵であると。
「会えたネ、アタシのお人形。目は治してあげるから安心してナ」
ゼンにとっての唯一の弱点、それは炎。灰になれば、ゼンの肉体は回復することが二度とできない。
――少女は嬉しそうに笑っていた。
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