第18話
リコルが宣戦布告を行ってから数日後。
ゼンは外部任務に呼び出されることもなく、中庭でぼんやりと空を眺めたり書斎で本を読んだりと自由気ままに過ごしていた。しかしその間も、彼女は自分に対して怪しい視線を送るものはいないか、常に殺気を隠しながら生活していた。
「にぃに、俺外に行ってもいい? 」
リコルが中国へ旅立つ前、ゼンは真剣な顔で彼に語りかけた。
「数分だけ……一分、一分だけ時間を頂戴」
「……子供達を巻き込んではいけませんよ」
ゼンは頷き、フードを被ると地面を踏み締め、スラム街へと瞬間移動する。そして、視界に広がる子供達の笑顔に安堵を漏らし、小さく何かを呟くと元の場所へと戻った。
「何をしたのですか? 」
「秘密」
ゼンは、少なからず理解していたのだ。これから先は、いつものような抗争や制裁とは違う。死者は出るだろう、自分も死ぬかもしれない、異国の地、リコルだけが行く筈だった。それではダメなのだと。彼女は反対を押し切って、自分も中国へと行くのだと言い出したのだ。
「俺も戦う、俺もみんなを守る」
ゼンの揺るぎない決意に、リコルも押し負けてしまったのだ。
長時間のフライトを終えた二人は、異国の土地に足を踏み込んだ。リコルは「俊杰」という名前を使いはじめた。
「にぃに、ここでの俺の名前は? 」
リコルはゼンの方を見ると、優しく笑った。
「貴女の名前はそのままで構いませんよ。ゼン、貴女はゼンという名前のままでいなさい」
「にぃにはどうして名前を変えたの? 」
「私の名前はこの国では少し目立ちますから……」
リコルはゼンの手を掴み、裏路地へと足を運んだ。その間、ゼンは周囲を見渡していた。
ある建物の前に着くと、リコルは再びゼンの手を掴んだまま、別の方向へ足を運ぶ、そしてもう一度、その建物の前へ戻る……それを繰り返しながら、ゼンが瞬間移動で動ける範囲を増やしていた。
「……? 」
ゼンはある一角で立ち止まると、スッと窓の中を除いた。怪しげに光る何かを指差すと、パンッと弾ける音がした。
「能力……? 」
漂うのは火薬の臭い、ゼンは二歩、三歩後ろに下がり物陰に隠れた。先程まで同時に動いていたはずのリコルはその場にいない、彼は別の箇所……建物の中に移動し、死角から能力者を探していた。
「俺が通ったところ、俺が見たところ、バチバチしてる……」
爆発系の能力を持ってるのだろう、ゼンは咄嗟に判断して遠距離から爆発するまでの射程距離を測ろうと石ころを投げつけた。
石ころはゼンから1km程離れた場所で爆破した。そこが射程距離であるとゼンはリコルに伝えた。
『1km離れたところで爆発した』
「流石ですゼン。私が何も言わなくても、自分で実行できるのはとても素晴らしいことですよ」
リコルは少しずつ、少しずつある物を落としながら場所を移動すると、建物の外へと出て行った。そしてゼンに合図を送り、ゼンは合図を見てすぐ石を投げる、相手は能力を使って爆発を起こすも、リコルが巻いた粉により、粉塵爆発を起こした。
あまりにも単純、しかし二人はそれがラッキーなこととは思えなかった。不気味、不安、それ以上の何かを感じ取っていた。
「ゼン、良いですか。先程の能力……簡単に人を巻き込んでしまう力、それを意図も容易く、利用して私たちを殺しに来ている、そういう者たちが集まるのです」
ゼンは静かに頷く。
「……今日は、部屋に戻りましょう。詳しいことは、後日お伝えします」
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