第17話
龍蘇会、中国に本拠地を構える黒社会。
その組織の中で若頭とされている少女は、薄暗い部屋の中でジッと花弁を見つめていた。丽、と声をかけると彼女は瞬き一つせずに言葉を続けた。
「人形、いなくなったのはアタシのせい? 」
丽はアヘンを吸い込み、さぁ? と曖昧にだけ答えていた。
「元々、アレは龍を誘い込む餌にする予定だったからな」
「……どうして丽は、そんなに仲が悪イ? 」
「色々あったのさ、色々」
色々……そう、本当に色々あったのだ。
――何十年も昔、丽は政府からの指令を受けてイタリアのマフィア組織内部で諜報員として働いていた。その中で、自分と同じ年頃の子供と出会い、仲良くなった。組織の中で丽は、生まれて初めてまともに、人間として扱ってもらうことができた。本人もそれを「嬉しい」と感じ取ることはできた、しかしだからといって命令に背くことはできなかった。
イタリアの友人と共に、彼はあるスラム街に出かけることもあった。そこには幼いアルビノの女の子がいた。病弱で、幼い丽とその少年は二人で結託し、彼女を助けてやろうとも思っていた。
臓器を売り捌かない限り助からない命がある、彼女のように。だからこそ丽は、臓器販売に意を唱えることはなかった。
丽が組織を裏切り、中国に戻る時も彼は心の奥底で、自分が感情を得てしまったことをひたすら後悔していた。親友と別れる苦しみ、辛さ、自分を人間扱いしてくれたボスを裏切った愚かさ、それら全てが彼の心を突き刺した。
丽には母国に戻ってからと言うもの、政府に反旗を翻そうとしたところを龍蘇会の先代ボスに拾われたのだった。
平等な幸福と平等な不幸、丽にとっては人が死ぬこと、それはどんな形でもどんなに連鎖的な物であっても、平等な不幸であることに変わりはなかった。その筈だった、しかし彼女だけは違った。
「丽さん。取り込み中? 」
長髪の青年がひょっこりと顔を出す。別に、と丽が取り繕った笑顔を向けると青年はボイスレコーダーを渡すと「仕事があるから」とすぐその場を後にした。
――龍蘇会への宣戦布告を聞いた丽は、やっとかと待ちくたびれたかのように笑った。
「毎度毎度、あいつは判断が異常に遅い。確認に確認に確認……嗚呼、本当に慎重なんだ。最後に争ったのはいつだったか、覚えちゃいねぇ。こっちも多くの罠を張った、あいつが堕ちてからじっくりじっくりと、仕留められるように……やっとだ。待ち望んでいた、あいつのこの声が聞ける日を」
丽は美玲にそっと耳打ちすると、美しい刺繍が施された雑面を彼女に被せた。
「くれぐれも無茶はするな、かと言って手抜きもするな。小生達の狙いは一人……――
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