第13話
ゼンが目を覚ました場所は、リコルの部屋の中だった。何をしていたのか、何か大事なことを忘れかけている気がする、ゼンは暫し頭を悩ませたが、そのうちそれは大差もないことだったのだろうと割り切り、「それよりも」とリコルの頬を軽く叩いた。
「……どうしました? 」
「く、く……れ……? えーと、あの、せーぎょ」
寝起きのリコルは嗚呼、とゼンの頭を優しく撫でた。
「訓練ですね。でも貴女、昨日は能力を使いすぎて倒れていたでしょう? 今日はお休みですよ」
そんなありもしない嘘を、ゼンはすっかり信じていた。そして、どうしてもと訓練相手を頼み、リコルはしょうがないと苦笑した。
「それでは……私が今、何を考えているのか当ててください」
「えー……」
「物体錬成も変身も難易度は高いですからね。まずは私の体に触れて……目を閉じて、私の姿をよく頭の中で想像してください」
ゼンは言われた通り、リコルの腕を掴んで目を閉じた。そのまま姿をそっと思い浮かべる、後に文字列と同時に彼の声が頭の中で響く。
「えーと……聞こえた……? 」
「何が聞こえましたか? 」
「ライターがない、煙草欲しい、二段目のチェストの中……合ってる? 」
「大正解ですよ。それならチェストから煙草とライターを取り出してきてくれませんか? 」
リコルは次に、ゼンをそっと抱きしめながらチェストの引き出しを開き、ライターと煙草がこちら側へ引き寄せられる状態を想像しなさいと教えた。能力全てを器用に使いこなせないゼンが、暴走しないようリコルはそっと抱きしめていた。
「……頭痛いよ」
「それは残念ですね。煙草は手元に来てるのに、ライターは後ちょっとですよ」
「ゔー……」
「無茶はダメですよ、どうしますか? 」
「……頑張る……」
ゼンは行使を続けた。ライターが手元に訪れた時には、長距離を走った後のように息が切れていた。
「よくできましたねゼン。本日はここで終わりにしましょう、これはご褒美ですよ」
リコルはゼンの口にキスを落とし、そのまま舌を少し入れた。ただ、絡めることはなく、何かを落とすとすぐ口を離した。
「……甘い」
「キャンディーですよ。ゼンのためだけに買っておいたんです、貴女の好きな味ですよ」
それを聞くと、ゼンは年頃の子供のように少し嬉しそうに笑った。
「今日は二人で出かけましょうか」
「二人? 」
「えぇ――
ゼンは頷いて、身支度を整え始めるのだった。
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