第9話

 ――その少年は、幼い頃から悍ましいものを見て生きてきた。

 亡霊、と呼ばれるもので、それらは幼い子供のような姿をしていた。少年は毎日毎日、亡霊から目を背けるように生きてきた。見えないふりをしようとすれば、それを貶す幻聴に苛まれる。

 少年には親がいなかった、彼は他の子供達と共に育った。彼は才能に満ちていた。歌、踊り、裁縫、料理、掃除に洗濯、愛嬌以外の全てを有していた。

 内側へと巻かれている癖のついた髪を持つ少年は、たった一つだけ普通の人間と違う場所があった。彼は生まれつき、右の目が異常な色彩を帯びていた。白目は黒く反転し、瞳孔は赤色、子供たちからは気持ち悪いと指を指され続けた。

 そんな少年は、ある時全てを理解して、全てを失ったことがある。その理由は覚えてない、たった一つ……少年は、能力を暴走させて事件を起こした。瞬きした少年の手には、赤い花が咲き乱れていた。


 自分を貶す施設の大人、子供、それらはもう既に人間ではない。少年は、自分を否定する存在をここぞとばかりに消し続けた。消さなければならないと心の奥底で無意識に感じ取っているかのように。

 いつしか少年は、消すだけでなく側に立とうと決めた。異国の子供であれども自国の子供であろうとも関係なく話しかけ、自身の愛を説いた。

「弱者を愛すれば世界に平和は訪れる。人間は、不幸を時点で平和には一生なれないのだ」

 勿論、それを理解してくれるような人はいない。それでも、それでも彼は冒涜をやめなかった。

 少年は愛を求め続けた。愛、愛、愛、彼はまともな愛が欲しかった。

 まともな愛を知らない少年は、いつしか大人になり、白いリボンを身につける、子供たちに笑顔を向ける。


 ――リコルは、愛を知らぬまま、道化を演じ続けているのだった。

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