第7話

 ――暗殺班ラ・モルテ、それはファミリーの中でも特に戦闘能力が高い者たちの集まり。その名の通り、暗殺に優れた技術を持つ集合体。そんなチームの中で噂になっていたのが、の話題だった。いつからその話題が出たのか、今となっては誰も覚えていない。

 男は一人、デスクの上に散らかる紙と目を見合わせた。肘を突き、冷めた珈琲を飲みながら。

龍蘇会ロンスーフィの所有してるオークション会場にて売られていた娘。日本人、両親は失踪……んで、能力の有無は不明……」

 男が探っているもの、それは異国からの諜報員、所謂スパイと呼ばれる者がいるのではないか。それは誰なのか、と言うことだった。

 近年、血の掟だった人身売買や臓器販売が異常なまでに多発している、それは合意のものではなく、無理やりなもの。そして、遠く離れた場所で、仲間の惨殺死体が見つかっている。1999年にも同じ事件が起こっていた。

「龍蘇会は中国の奴らだったな、日本の隣国か……まぁ、可能性は低そうだが」

 男は命令であれば、仲間だろうが手を下せる。然し、そんな命令に従うならば、その前に芽を摘み取ればいいと考えていた。

「戻りました」

「おつかれ、どうだった? 」

「特になにも、大きな変化はありません。暗殺班では無いのかと聞いても、違うと」

「怪しい様子は? 」

「ありませんでした。嗚呼、一つだけ……ボクの思い込みかもしれませんけど」

 女性のような見た目の青年は懐から携帯端末を取り出すと画面を男の方に向けた。

 眩い光と同時に、映されていたのは先ほどまでとある人物が読んでいた本の内容。

「漢字……中国語か? 」

「はい。同じ所を何度も読み返していました」

「彼女は理解してるのか? 」

「そこまでは分かりません」

「……そうか、まぁいい。今日は休め」

  中国語の本を繰り返し読み耽る日本人、男はそれをメモに記すと、自身も床についた。


 翌日、男は庭園の噴水に腰掛け、花を眺める彼女を見かけた。何をしてるのかと声を掛けると、少女は見た通りだと答えた。

「俺、今日は仕事が無いんだ」

「それで? 一人で花を見てると」

「嗚呼、花は好きだと思う。落ち着く」

「それは、故郷で見た花だからか? 」

 少女は口を閉ざし、男はその様子を観察しながら話を続ける。

「お前、日本人だろう? それなのに、中国語の本を読んでいるそうじゃないか。3×6もまともにできないお前が、異国の本を読んでると。最近聞いたんだが、中国では人攫いが横行してるらしいな、何でも人身売買の為に、幼いガキを攫うらしいぜ。国内だけじゃねぇ、例えば日本のヤクザだとか、後はそうだな……マフィアの輩とかがよ」

 少女の頭には、忘れかけてたことが少しずつ、ヒビが入るように漏れ出してくる。必死に抑え、何のことだとしらばっくれても男は容赦なく続けてくる。

「素直になれよ、なぁ? 俺たちはお前のもう一つの能力を知ってるんだ、そしてその力は、お前の過去のせいで今は制御されていることも。俺が知りたいのは真実だ、確固たる真実。愛だとか平和だとか、そんなものより最優先に知りたいことだ」

「……あ、い……? 」

 ――刹那、少女の頭に……ゼンの脳裏に蘇ったのは、自分とよく似た顔の二人の人間だった。

「ゼン、ゼン……お前は何者だ? 」

 二人は少女に、ある言葉を投げかけた。『愛している』、その言葉と、何かを蹴る音が聞こえた。

「お前が俺たちの動向を探る裏切り者であるなら、俺はお前を殺す。お前が人攫いの被害者であるなら、俺はお前を殺さない」

 少女は暫く間をおいて、ゆっくりと、小さく、口を動かした。

「私……じゃ……ない……――」

 そして、それに付け加えるかの如く、彼女は言葉を続けた。


「愛……愛が……全部、奪ったんだ――」

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