第4話

 ――同時刻、イタリアよりも離れた或る国では髪の長い男性が呆れたように見る少女を見つめていた。

「もう良いだろ美玲メイリン、それ以上は品にならねぇ」

 少女はその一言を聞くと動かしていた手をピタリと止め、動かなくなった肉を蹴り上げた。

リィ、こいつ死んだ? 」

「死んだな。オメーの一発が強すぎんだよ」

 男性は誰かに連絡を取るような仕草を見せると、美玲と言う少女を連れてどこかへ足を運んだ。

「丽、丽、ご褒美ハ? 」

「戻ったらな。小生は用事があるんだ」

「アタシも行く? 」

「……まぁ、そうだな。お前もそのうち世話になるだろうからな」

 丽が彼女を連れて行ったのは、そこそこ整ったごく普通の一軒の家だった。シルクのような洒落た布が室内を飾り、煌びやかな飾り細工の灯りが目立つ。

 美玲は灯りを前に立ち尽くし、奥から出てきた男性は二人をさらに奥の部屋へと通した。

涅槃ネハン。私はいつも言ってますよ、彼女は強い灯りを怖がると」

 人前での偽りの行儀良さを見せながら、丽は美玲の手を優しく握りしめた。

「そうかい、儂はこれくらいが丁度良いんだがね」

「おやおや。視力が上がる薬でもご提供しましょうか? 」

「脳味噌と天秤にはかけたくないね」

 奥部屋の、それなりに寝心地が良さそうな長椅子に二人を座らせた男性は一枚の紙切れを見せた。

「お前さんからの依頼だよ。この紙切れに血がついてるだろ、こいつはイタリアの新聞記事だ。血痕の範囲を見た感じだが、恐らく後頭部からの銃撃による飛沫だろうな」

「そこまでわかるとは、便利ですね」

 涅槃は少しムッとしたが、そのまま話を続ける。

「恐らく、狙われたのは子供だ。こいつがその証拠だな」

 涅槃はもう一つ、小さな指輪を差し出した。

「指……小さいネ……」

「内側を見てみ」

 指輪の内側には、白い粉末とカサついたものが引っ付いていた。二人はそれが、骨と皮膚の残骸であることにすぐ気づいた。

「……悪趣味な」

「ここいらでも最近、幼子の誘拐事件が増えてるだろう? 理由はわからないが、関係はあるんじゃないかね」

「でも、犯人ならさっき殺したヨ」

「その犯人とやらが、複数いたらどうする? 」

 ――或いは、そいつが国外の者であれば。丽は一人だけ心当たりがあった。

 愛される為に、他者をエゴとして利用している人物に。

「あんたらが黒社会チャイニーズ・マフィアであることは理解してる、まぁ……それなのにこう言ったことに首突っ込むのも不思議だが。政府管理下の御国の中でさえお前さん達の動きが見て見ぬふりされてるなら儂がどのように協力しようがしまいが、特に問題はなかろう」

「……情報提供、感謝する。お前の息子の身は私達が守ります故、御安心を」

 丽は会釈だけすると、美玲と共にその場から去って行った。

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