赤と緑は恋の味

紫恋 咲

第1話  赤と緑は恋の味

「あ〜今夜も雨か……」

「雷まで鳴ってるし……」

「いつまで続くんだろう……」

「きっと明日は晴れますように」手を合わせた。

つい独り言が増えてしまった。

「寝るしか無いか……」


俺の名は五十嵐孝太いがらしこうた高校二年生だ、父親の転勤で俺一人この町に残って独り暮らししている。

独り暮らしが長くなると独り言が増えると聞いていたので、自分の事が少し可笑しくなった。


寝ようかと思いノートパソコンを閉じようとした時、ゲームのCMが表示された。

「カワイイ!!!」身を乗り出して見てしまった。

どうやらRPGと恋愛シュミレーションを合わせたようなゲームらしい。

そのキャラクターらしきお姫様のイラストが、俺の好みのど真ん中だった。

しかもゲームをクリアすると特別な彼女のサービスショットが表示されるらしい。


「もしかしたら……水着とか……」



「ポチッ……」やってしまった。

俺は有料のゲームなのに、初めてしまった。

それ程ゲームをやってるわけでも無いので、なかなかクリア出来ない、ポイントやアイテムも増えない。

お姫様を助けて旅するストーリーだが、全く不甲斐ない状態だ。

もう諦めようかと思った瞬間、近くに雷が落ちたらしく停電になった。

「なんだよ……」仕方なく水を飲もうと机から離れようとしたら、ノートパソコンの画面から光と共に何か飛び出してきた。

「えっ!!何???」

「その光は少しずつ弱くなって、よく見るとドレスを着たお姫様が立っている。


「ここはどこ?」俺に聞いた。

「どこって言われても……俺の部屋ですけど……」

「そうなの……」あたりを見回した。

停電は解消され、部屋の灯がついた。

「うわっ!……ゲームのキャラクターのお姫様だ……」

「あなた、私のゲームをプレイしてくれてたの?」

「はい、ちっとも上手く行ってませんけどね……」


ゲームの画面を見ると『ただいま操作不能の状態になっています、しばらくお持ちください』と表示してある。

それを見たお姫様は「大変だ、直ぐに帰らなくちゃあ!」そう言った。

「そのようですね……」俺は頷いた。

「じゃあ失礼します」お姫様はパソコンの画面に触れた。

彼女の手は液晶画面にスッと入り込んだ。

俺は「さようなら……」そう言って手を振った。

やがて肩まで入りそうな状態になったが、彼女は頭を画面の端にぶつけて「痛い!」そう言った。

「どうしたんですか?」

「狭くて入れない……」

「えっ!!!なんてアナログなリアクション!」俺はコントを見ているような気がした。

お姫様は何度も挑戦したが、現実のサイズから見ると入れる気がしなかった。


やがてお姫様は額の汗を指で少し拭くと諦めたように座り込んだ。

「大丈夫ですか?」

「見てて大丈夫に見える?」頬をふくらして少し睨んだ。

「ですよね……」俺はおかしくなったが笑いを堪えた。


「お腹すいた」お姫様はポツリと漏らした。

「えっ、お腹空くんですか?」

「ここに来たら、なぜかすいてきたの」口を尖らせた。


「そうですか……カップ麺なら買い置きがありますけど……」

「それがいいわ!」お姫様は少し微笑んだ。

俺は買い置きしてあった『赤いきつねと緑のたぬき』を出した。

「どっちが良いですか?」

お姫様は嬉しそうに見た。

「どっちも食べたい」

「えっ?……どっちも?」

俺は少し考えた。


「じゃあ、二つ作って半分ずつ食べるのはどうですか?」提案した。

「ステキ!」お姫様は喜んだ。


早速お湯を沸かして、出来上がる時間が同じになる様にお湯を注いだ。

待っている間、楽しそうなお姫様をじっくり見た。

とてつもなく可愛かった。

金髪の髪、赤い唇、緑の大きな瞳、イラストが本物になって、どうにもならないくらい可愛い。


「ピピピピ」アラームが出来上がりを知らせた。

「どうぞ、好きな方を食べてください」

「じゃあ赤い方をいただきます」そう言って食べ始めた。


「美味しいね」微笑んだ。

「出し汁がいいですからね」

「ん……?」

「なんでも無いです」


「はい、半分食べました」お姫様は俺の前に差し出した。

「はい、じゃあ、」緑の蕎麦を差し出した。

「有難う」嬉しそうに受け取った。


俺は赤いきつねを食べようとして丼を見た。

丼の淵に少し赤いルージュの跡が見えた。

その瞬間、俺の心に欲望が溢れた。

恋愛偏差値の低い俺にとって、このチャンスを逃すわけには行かない!

「間接キスをしたい!!!」心の声が全身に鳴り響いた。


お姫様を見るととびきりの笑顔で食べている。

それを見た瞬間、俺の唇は魔法にかかったようにルージュの残った丼に吸い寄せられた。

彼女はチラッとこっちを見た。

俺はドキッとした。

しかし、また嬉しそうに食べている。

俺はホッと胸を撫で下ろした。


「美味しかった、ごちそうさまでした」落ち着いた二人は考えた。

「あのう……魔法で小さくなるとかできないんですか?」

「無理!魔法とか使えないもん」

「そうですか……」

結局大きな画面なら入っていけるんじゃ無いかという、超アナログな結論になった。

俺は近所のリサイクルショップに大画面のテレビが置いてあることを思い出した。

朝になって早速買いに行った。

お店から台車を借りてなんとか運び込んだ。

HDMIケーブルで繋いでゲームの画面を表示した。

お姫様は恐る恐る手を出した。

スッと手は液晶の中に入って行った。

「大丈夫みたい」にっこり微笑んだ。

「有難う」そう言って手を振るとお姫様はゲームの世界へ帰って行った。


俺はその大画面でゲームを続けた、すごい迫力だ。

なんとかクリアできたので、サービスショットを待った。

ファンファーレがなると、エプロン姿のお姫様が映った。

そして「どうぞ召し上がれ」そう言って赤いきつねを差し出した。

丼の端には小さな赤いハートが点滅している。

「うわっ!やっぱりバレてたんだ!」全身の力が抜けた。

しかし、俺は間接キスという大偉業を成し遂げた事に心から幸せを感じた。


「そうだ、もしものために赤と緑を買い置きしなくちゃあ」そう言ってコンビニへ出かけた。

空を見ながら「また雷が落ちないかなあ」と独り言を言った。

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