おねがい。これ以上、菫をこわさないで

「おねがい。これ以上、菫をこわさないで」

少女の指先が、核のふちをなぞる。鈴蘭の懇願も虚しく、ヴィオラのかけらがこぼれ落ちた。

「菫。行ってはだめ。私、……あなたに伝えたいことが、たくさん、あるのに」

「手を離しなさい、鈴蘭」

菫の残骸にすがりつく少女に、そっと声をかける。返事は、ない。


2022/12/25

花ねむるサナトリウム

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