榛の瞳はまっすぐに"弟"の輪郭をとらえていた
少年のてのひらに微かな重みがつたう。真鍮でつくられた其れは裏口を開けるための鍵だった。
「見廻りはいない。戻るなら、今だよ」
榛の瞳はまっすぐに"弟"の輪郭をとらえていた。窓から射し込む月明かりがふたつの影をなぞる。
「……今さら」
少年は鍵を握りしめ、そっと彼の手に口づけた。
「戻れない」
2022/1/17
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