第17話
季節が冬になり、向日葵の花は五店舗はしごしてやっと手に入れた。お供えのお菓子やジュースはほとんどなくなっていた。誰かが死んでしまっても、こうして少しずつ少しずつ薄れていって、世界にはもう存在しないことを思い知るのだろう。
生きている限り、誰かの記憶に居続けられるのに、どうして彼女は死んでしまったのだろ。
聖瑋が死んでしまって、彼女を忘れないように、必死に思い出の海を泳いだ。
怖かった、楽しかったあの日々がもう存在しないのだと実感するのが。
もう過ぎた日々以上のことは起きないんだと感じることが。
季節外れの向日葵の花を供えた。曇った空、向日葵の花もあのときのようにまぶしくはなかった。
そのまま、歩行者用道路を歩いて秋葉原から、東京湾に向かった。雪は降っていないが、乾燥した風が冷たく、刺すような痛みを感じた。たどり着いた海は黒く、うなっているようだった。
持ってきていたはさみで少し髪を切った、そしてそれを海に投げた。
君が戻りたくって戻れなかった海。その水面に自分の顔が映る。
俺はずっと本心を見るのが怖かった。聖瑋も優菜も、自分に関わる人々の。だから、周りに表だけで接して、大事なものを失ってしまった。なくして気付くなんて遅すぎるよな。
今年の誕生日、聖瑋に渡そうと思って買っていたプレゼントを思いっきり投げた。鈍い音がして、黒い水の中に沈んでいった。
ばいばい
君の代わりに、毎日毎日少しずついい行いをしよう。そうして良い行いがたまったら、きっと君の魂も浮かばれる。
だから君のところに行くことはまだ出来ないんだ。
見守っていて欲しい、こんな弱くて誰にでも中途半端な優しさを振りまく僕を。
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