第14話


「優菜~、久しぶり」

大学時代の友人の早見わかなが笑顔で迎える。真くんは今週末は予定があると言うことで、羽を伸ばして級友に会いに栃木に来た。

「わかなも元気にしてた?」


「元気元気。でも子ども達に元気吸い取られちゃうね~」

わかなは保育所で先生をしている。

「どうしよ、生でいい?あんまこのお店のシステムがわかんないんだけど。」

駅の中にあるこじゃれた餃子居酒屋。私が学生のころはなかった。

「いいよいいよ。たーんと飲んで。久しぶりの再会なんだから。ご飯もいっぱい食べ。」


熱々の餃子をキンキンに冷えたビールで流し込む。普段は、窓口業務もあるため控えているのだが、今日は気にせずがっつりとニンニクの入った餃子も食べれる。


「ほんとおいしい~」

「普段彼氏といると、こんなの食べれないでしょ。」

「うーん、どっちも体育会系だからね。そんな気にしないんじゃない?」

「最近うまくいってんの?彼氏と」

「うーん、別れよっていわれた。」


わかながオーバーに餃子を落とす素振りをする。


「え、うそ。あんたらあんなラブラブだったじゃん。」

「一緒にいる期間が長いと倦怠感とかあるんじゃない?」

うそ、なんとなく知ってる。真くん、多分気になっている子がいるんだよ。

「え、なんて答えたの?」

「私のこと、好きかって聞いて」

「うんうん」

餃子を口に詰め込む。中でニンニクの匂いがはじける。それをビールで流す。

「好きって言ったから、別れないって言った。」

「えー。どうして。」

「どうしてってどういうことよ。」

生を追加注文する。

「だって、一旦心が離れたら返ってくるのって難しいじゃない。」

確かに、不謹慎だけど相手が死んじゃった人ならなおのこと忘れられないよなぁ。こっちの記憶はいい方にも悪い方にもアップデートされていくけど死んだ人って思い出補正も相まってずっと綺麗なままじゃん。

「でも私は好きだからさ。」

「うん」

「真くんも好きって言ったし」

わかなが困った顔をする。知ってるよ、本気の好きじゃないかもしれないって言いたいんでしょ。

「じゃあ、別れなくてもいいかなって。」

「あんたけなげだね。」

「そうかな」

全然そんなことない。ただ悔しいだけ。別れようって言われてうんって言っちゃったら、私が不幸になっちゃう。亡くなっちゃったその子には失礼だけど、突然来た第三者によって、自分の幸せが失われるのがいやだった。たとえ、彼はもう私の事なんて心になくても、その子のことを忘れられなくても、今みたいに一緒にそばにいて、笑ってくれることが私にとっては幸せだった。それを手放すのがいやだった。そんなわがままで自己中心的な理由。それに別れたら、ずっと悲しみに暮れている好きな人に何もしてあげられない。どこか別の女に癒やされて幸せな姿をみるのもいやだった。そばにいても声を出せなかった人魚姫と違って、私はちゃんと意見を言うことが出来る。嘘か本当かわからないけど、彼の口から「好き」と言われる限り、私達が別れることはないのだ。だって、彼は私の事が好きなのだから。

「私は、優菜に幸せになってほしいんよ。今ならまだ間に合うって。」

「街コンにでも参加しろと?」

「うん。私、こんな優菜黙ってみていられないよ。」

「でも、私が好きなのは真くんだからさ。完全に拒絶されるまで、私、真くん以外の人を多分好きになれないと思う。」

「でもさ、、、」

「わかなの言いたいこともわかるよ。でも私にとっての幸せは、真くんのそばにいられることなの。その代わり、もしいられなくなったらそのときは盛大に残念会してね!」

「もー、、、優菜ったら。涙目で何言ってんの。」

わかってる。強がりだって。でもこうするしか、保てないんだ。私も。

「今日は朝まで飲んで食べて、今だけは全部忘れるよ!」

そういって、わかなが私の肩を抱きに来る。椅子代わりのビールかごががたがたと揺れる。

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