第12話

「別れて欲しい。」

わがままなことはわかっていた。でもこれ以上、一緒にいるのは難しいと感じた。それは自分の心はもうこの世界には戻ってこないことを感じたからだ。

「そう。」


間を空けて、優菜が聞く。


「じゃあさ、理由を教えて欲しいな。私、だめだった?」


「違う。優菜がダメとかじゃない。ダメなのは自分なんだ。」


どうしてこんなうまくいかないんだろう。どうしてあっさり、こんな自分を捨ててくれないんだろう。


「どうして、すてきな彼氏じゃない。」


紅茶を一口飲んで、微笑みながら優菜がいう。


「全然そんなことない。」


「どうして」


「女の子が死んだんだ。」


思いもよらない理由が来たからか、優菜は口をつぐんだ。わかっている。こんなこと良くないって。一番言わなくちゃいけないところを言っていない。


「それは、真くんにとって大事な子?」


「うん。」


「でも、その子の死って真くんに関係ないじゃない。」


「そうじゃないんだって。」


「それが、私と別れる理由になるの?」


「俺は優菜を悲しませてしまう。」


「真くんは、私のこと好き?」


「好きだよ。」


「じゃあ、別れない。私も真くんが好きだから。」


何でわかってくれないんだよ。怒りにも似た感情が湧いてきたが、それをぶつけられる場所はなかった。


制服が秋服になり、カレンダーはまた一枚薄くなった。

優菜との関係はそれからも続いている。定期的に会うものの、あまり会話をする気にはなれなかった。だらだらと生き延びて、一ヶ月近くになる。俺はどうすれば良いんだろう。死にたい。と思うことは減ったが、どうして生きているんだろう。と考える機会は増えた。日に日に増えていく自己への嫌悪感は、理由探しによって得られる充足では抑えられなくなっていた。そんな思いが死神となったのか、足は東京に向かっていた。


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